第47話 未来図③

「へえ...零君、全校の前で告白したんだ〜」

「そうだよ。マイクの音割れるくらいにでかい声でさ。俺たち恥ずかしくて他人のフリしてさ」

「直也も、文化祭で告白したんだよね」

「うん」

 少し寂しげに、上野は頷いた。

「唯も好きって言ってくれて。2人で屋上でキスしてさ。幸せってこんな事言うんだなって柄にもなく思ったりして」

 上野の声が震えだす。

「唯ちゃんは...?」

 彼女が上野に聞く。その瞬間、上野の目から大きな雫が落ちた。

「あの日...2人で帰り際にも楽しく話してさ。キスして。帰ったんだ。次の日、唯はいなかった。さらに次の日に知ったよ。唯が学祭3日目の帰り道で交通事故に遭って亡くなったって」

 暑い暑い夏の日。高校の学祭。好きな子とキスをして、話して、幸せだと想っていた時間は、ほんの少しだけだった。それから上野は引きこもり、1人で悲しみに暮れたという。皐月や唯の父親も同様に、悲しみのどん底に突き落とされた。

 そんな時。上野はふと美奈の言葉を思い出した。運命。そんな物がこの世に存在しているのならば。こんな悲惨な運命を作った神とやらを殺したいほど憎いと思った。しかし、どんなに想っても、願っても、唯は二度と戻ってこない。前を向くしかない。あの頃の上野は、自暴自棄になりかけながら、必死に進んだ。そして、そんな上野を助けたのは、今の彼女である、小田切由佳だった。

「これも、運命なのかと思ったよ。美奈ちゃんのお姉さんだなんてさ」

 もう、泣き声でもない、掠れた弱々しい声で上野は言った。

 由佳は、上野をジッと見つめていた。そして、立ち上がって横に座り、上野の頭をそっと抱き寄せた。

「悲しい事なんて、人生幾らでもあるよ。私だって、忘れたくても忘れられない嫌な思い出だってあるよ。でも、直也はそれを乗り越えてきたの。そして、私と出会ってくれたの。それが、私にとってどれだけ幸せな事か。だから、今は泣いて。泣いて、泣いて、悲しむだけ悲しんで、また2人で進もう」

 上野は由佳の胸の中で、今までの人生で間違いなく1番と言えるほど泣いた。

「やっと言えたんだよ。好きだって。俺の勇気がもっとあれば、もっと長い時間、唯と一緒にいられたのかな」

 そんなことを言いながら、上野は泣いた。気づくと時計の針は深夜の1時を過ぎていた。そんな上野を、由佳は母親の様にずっと抱いていた。



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