第46話 秋元零オンザステージ

 学祭3日目は、昨日の小雨が降った事など忘れ去るほどの快晴となった。上野、雄一、零の3人は、相変わらずクラスの準備をしていた。

「お前...嘘だろ...」

 零が嘆きの声をあげたのは、上野が昨日、唯への告白を成功させたという報告に対してのものだった。

「おめでと。お似合いのカップルだな」

 零とは違い、祝福したのは雄一だ。上野はこういうところを見習っていきたいと思った。

「恥ずいからあんま広めんなよ?」

「悔しいから広めてやる」

 半泣き状態で上野に意地悪を言ったのは零である。

「お前ガキだな〜」

 それに対し、雄一が突っ込む。

「うるせえよ。俺なんか...皐月ちゃんと立ち話しただけで限界だったのに」

「女慣れしてるお前がそうなるって、皐月って意外とすげーのな」

 何気なく上野がそう言うと、

「めっちゃ可愛いわ!舐めんな!」

 と対抗する零。上野が内心で、唯と皐月は顔だけ見ればどっちか分からない程似てるのにと思っていたのは内緒だ。

「でも、あの皐月が男に心を開くなんて凄いよ。俺は脈ありだと思うな」

 上野は客観的に言った。

「そ、そうか?」

 あからさまに嬉しそうにする零を見て、上野と雄一は顔を見合わせて笑いあった。



 3日目の午後、上野は唯と校内を見て回った。昨日起きたことを忘れようとするかのように、次々とクラスを練り歩いた。そして、いつもの屋上にたどり着いた。

「ふ〜、歩き疲れたね〜」

 屋上のベンチに腰掛けながら、唯は背伸びをした。上野も唯に続いて横に座る。そして、何気なく上野と唯の手が重なる。付き合いたてとはいえ、春からずっと関わり合ってきたためか、2人とも恥ずかしがる様な素振りは見せなかった。

「あのさ、皐月の事で相談があるんだけど」

 切り出したのは上野だった。

「さーちゃん?」

「俺の友達の秋元零って奴なんだけど、皐月の事が好きみたいなんだ。けど、皐月も男に対してあんまり耐性ないじゃん?そこら辺、姉としてどう思うかなと」

 少し考える素振りを見せてから、唯は口を開いた。

「私は、さーちゃんの気持ちを尊重してあげたい。でも、私が言うのはおかしいんだけどね、さーちゃんは直也が好きだったの。そう簡単には...」

「だよなー」

 皐月をフったのは、他でもない上野自身だ。そんな男が、別の男と付き合わせようとしていたら皐月はどう思うか。いい思いをするはずがあるだろうか。考えれば考えるほど、上野自身が出来ることは無いのではないか、そう思えてきた。

「そろそろ行こうか」

 上野はベンチを立った。不意に唯の顔を見ると、唯が物欲しそうな顔で上野を見ている。反射的に唇を押し当てる。流石にこれにはお互い顔を真っ赤にした。



 3日目のイベントとして、中庭のステージで好きな事を叫ぶという、なんとも学祭らしいものが開催され、上野達3人も見に行った。その中盤。

「あれ、零は?」

「そういえば」

 突如として零が消えた。いつからだったか、2人には分からない。そう思った瞬間だった。ステージに見覚えのある顔。

「続いては、2年の秋元零君!!」

 司会の3年生がそう叫んだ瞬間、

「はあ!?」

 2人も同時に叫んだ。

「おい、雄一、あいつもしかして...」

「いや、流石にこの人数の中でそんな事は...」

 そこへ、

「あ、いたいた」

 後ろから聞き覚えのある声。そこには唯と皐月の2人が立っていた。

「2人ともどうしたの?」

 上野が何気なく聞くと、

「さーちゃんがここに来といてって言われたんだって。私も面白そうだなーって思って」

 上野と雄一は顔を見合わせた。そこから先の展開を知る者は、2人のみだった。




 零の渾身の告白は、学校中に響き渡った。2年の中でも人気の高かった零が告白したのは、いつも保健室で休んでいる女の子。そんな事、誰が予想できたか。1番驚いていたのは紛れもなく皐月だったが。

「え、嘘でしょ?あの人、ほとんど話したことないわよ?それにこんな公衆の面前で」

 淡々と言うその顔が赤くなっていたのは、上野達3人しか知らない。


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