第45話 小雨の中で
上野が走って行ってから、皐月はその場に座り込んだ。そして強く願う。どうか姉を守ってくださいと。そんな皐月の後ろで足音がした。振り返ると、そこには零がいた。
「あなた...祭りにいた」
「直也のクラスメイトの秋元零といいます。その...泣いてるの見て。大丈夫かなって」
皐月は少しキョトンとした顔で零を見ていたが、フッと笑った。
「なんで話したこともない私のことそんな顔で心配するのよ。お人好しにも程があるわ」
零は、自分で思っているよりもよっぽど心配そうな顔をしていたらしい。
「いや、俺、君のことが...」
「ありがとう。私、男の人苦手なんだけど、あなたみたいな優しい人なら仲良く出来そうだわ」
そう言って皐月は歩き始めた。零の横をすれ違う。今までこんな思いをした事があっただろうか。零はどんな子ともそれなりの関係を保てる程人懐っこい性格だったが、この状況では、話を続ける事が難しかった。その結果、振り絞った勇気が零の口をかろうじて開かせた。
「あ、あのっ!」
皐月は零の方に振り向く。零にとってはその振り向いた顔でさえとても愛おしく、可愛い顔だった。
「また...話せるかな?」
皐月はほんの少しだけ考えてから、意地悪そうに笑った。
「ええ。あなたとならきっと、ね」
そうして皐月は歩いていった。
「はあ〜〜〜〜〜...」
零は赤くした顔を手で覆った。
「何でこんな汗かいてんだよ...」
服をパタパタと煽り、汗を引かせる。
「負けねえ」
そう呟いて零は教室へと向かった。
皐月は学校から出る途中で、2人の男女を見た。その2人は、付き合いたてにはまるで見えないような距離感で笑い合い、小突き合い、そして帰り際に軽くキスをした。その時、皐月は気づかないフリをしていた、自分の失恋に気づいた。悲しくても、不思議と割り切れた。失恋の悲しみよりも、唯に対する祝福の想いの方が勝っていたからだ。自分がいつも大丈夫かと不安がり、心配していた姉が、好きな人を見つけ、その人と見事付き合った。こんな幸せがあるだろうか。気づくと、パラパラと小雨が降っていた。頬に流れるこの水滴は、この小雨のせいだと皐月は信じた。
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