第39話 それぞれの想い
中学2年の夏だった。当時、文化祭の実行委員会に入っていた美奈は、一個年上の男の子に出会った。その彼はジャンケンで負けてこの委員会に入ったのか、いつも1人でつまらなそうな顔をしていた。そんな顔を見かねて、話しかけようと思った。ただそれだけだった。
「あのー、この作業、二人一組らしいんですけど、私仲良い子いないので一緒にやりませんか?」
「え?あー、いいけど」
「良かった〜。人見知りなので誰とも話せなくて」
「人見知り?初対面の先輩に気軽に話しかけられる人見知りってあんまりいないと思うけど」
その男の子はフッと笑いながら言った。
(あ、笑った)
「そうですかね。あ、私、2年の小田切美奈って言います」
「3年の上野直也。よろしくね、美奈ちゃん」
こうして、自称人見知りの女の子は初恋と出会った。
「せんぱーい!今帰りですか?」
校門を出てすぐのところで、上野の後ろから甲高い声が聞こえた。
「美奈ちゃん。あんまり大きい声出さないでもらえるかな?変な目で見られてるよ」
彼はまた優しく笑った。
「すみません。で、これから予定でも?」
「いや、帰るだけだけど?」
「なら、駅前の本屋一緒に行きません?」
「本屋?」
「そうです。欲しい小説があって」
「美奈ちゃん、小説読むの?ちょっと意外だな」
「大好きですよ!あさのあつことか、池井戸潤とか」
「へー。俺も好きだよ、小説。なんか、漫画とかと違って頭で想像できるからね」
「あ、それ分かります!人によってどんな感じに見えるか違うのが良いですよね〜」
「本当に意外だな。美奈ちゃんはファッションとか女の子らしいもの好きだと思ってたんだけど、偏見だったね」
「私のファッションとか酷いですよ!家なんかジャージですし」
「当ててあげようか?プーマでしょ?」
「なんで分かるんですか!?」
美奈にとってそんな時間は幸せだった。いつしか上野を目で追うようになり、気がつくと同じ高校を選んでしまっていた。同じ高校とは言え、年が一つ違えば会う機会はグッと減り、話しかけるタイミングもなかった。そんな時、ふと屋上を訪れた彼女は再び初恋と出会う。
もしかしたら先輩も私のことを思ってくれているのではないか。そんな期待も胸の何処かにあった。しかし、たまたま保健室の前を通った時、上野の顔が噂の転校生の顔と重なるところを見てしまった。まるで台風の後の桜の花びらのように、淡い期待は何処かへと飛んで行ってしまった。それでもと自分を奮い立たせ、彼の元へと向かおうとした。その時、前から走ってきた誰かとぶつかった。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
美奈の手を掴んで起き上がったのは、先ほどの転校生だった。
「だ、大丈夫。あなたこそ大丈夫?」
「は、はい...」
「じゃあ...」
そう言って彼女は去っていった。一滴の涙を残して。
「美奈...ちゃん?」
反射的に声の方を見ると、そこには、
「直也先輩...。さっきの人は...」
「ああ、なんでもないんだ」
「本当にですか?泣いてましたよ?」
「.......美奈ちゃんが誰にも言わないって信じて、相談してもいいかな?」
「はい、教えて下さい。何があったのか」
「..........俺さ、さっき告られたんだよ」
期待は不安へと。彼女が彼を好きだと確信したのは、中2の冬だった。
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