第38話 終わりの時

 学祭2日目も昼過ぎになり、上野は保健室へと向かっていた。ノックをして中に入る。

「失礼しまーす」

「はーい、どうしたの?」

 上野の声に反応したのは、保健室の教師だった。この学校のOBらしい先生は、生徒からの人気も高かった。

「北川皐月さんいますか?」

「はいはい。奥のベッドで寝てるから。今日はシフトないからって言って朝からずっといるの。外に連れ出してあげて。あ、ちゃんと気をつけて起こすのよー」

「気をつけて?どういうこと?」

 上野は1番奥のベッドのカーテンを開けた。

「ん...」

 寝返りをうって出た顔は、唯と瓜二つだった。双子なのだから当たり前のことだが、顔は同じと言っても中身は正反対に近い。唯はアウトドア派の活発系。皐月によれば、部屋もあまり片付いてないらしい。他人から見れば大雑把で雑な性格だと思われるような彼女は、人間関係においてとても繊細だ。一方で皐月は、インドア派であまり動きたがらない。常に周りの人間のことを考えているのは、唯のことを思ってだろう。そのせいもあってか、自分の人間関係についてはあまり興味を持たない。実際に、今もこうして保健室で寝ている。

「皐月ー?」

 揺さぶって起こそうとしたが、気安く女子の体に触るのは気が引けたため、上野は声をかけた.........が、反応なし。

「その子、全然起きないから、揺さぶってあげてー」

 遠くで先生の声がした。

「マジかよ...」

 上野は皐月の肩に手を置いて、軽く揺さぶった。

「皐月、起きろ。お前が来いって言ったんだろ」

「ん...今日はシフトないって言ったでしょ?起こさないでよ...」

 皐月は布団を頭までかぶった。

「こいつ...おい!どっか行くんだろ!起きろって!」

 そう言って上野は皐月の被っている布団をバサリと取った。目の中に飛び込んできたのは、スカートを脱いで下だけ下着の皐月の姿だった。

「うわあっ!」

「ちょっと先生...まだ起こさないでって....?

 えっ?キャアアアアアアアア!!」

 甲高い叫び声を上げた皐月の体を見ないように、目を背けて上野は言った。

「ちょ、ちょっと待て!誤解だ!お前が起きないから...」

「誤解もクソもないわよ!このスケベ!変態!童貞!」

「おい!言っていいことと悪いことあるだろ!てか、何でスカート履いてねえんだよ!」

「布団被ってたんだから別にいいでしょ!?あんたこそ、女の子の布団剥ぎ取るなんて、変態の鏡ね!!」

「あーあ、だから気をつけなさいって言ったのに」

「ちょっと先生!もっとちゃんと言ってくださいよ!ていうか、こんな状態なら俺に起こさせないで下さい!!」

「別にいいじゃない。パンツくらい。じゃ、私は部活のお店見て来なきゃ行けないから行くわね。面倒くさいから不祥事とか起こすんじゃないわよー」

「しませんよ!」

 教師は保健室を後にした。上野がチラッとベッドの方を見ると、皐月はスカートを履いた後だった。お互いに顔は真っ赤に火照っている。

「ほ、ほら、行くわよ...」

「その...すまん」

「いいわよ。変態さん」

「お前、全然許してないだろ...」

「...........」

 皐月はベッドに座ったまま黙り込んだ。

「どうした?」

「やっぱり遊びに行くのはやめたわ」

「え?だってお前が行きたいって言ったんだぞ?」

「ええ。そのかわり、ちょっとだけ話を聞いてもらえるかしら?」

「?...うん」

 その瞬間、皐月は上野の腕を掴み、ベッドの上に引っ張り、さらに押し倒した。

「おい、何して...」

 言いかけた上野の口を皐月が手で塞ぐ。そして、その口を塞いだ手の甲に皐月はキスをした。

「私、直也が好き。このままの関係が壊れたとしても、私は直也と付き合いたい」

 皐月は上野の口から手を下げた。

「なんで...」

「ごめんなさい。我慢できなかったの。返事をすぐに寄越せなんて言わないわ。でも、この気持ちだけは直也に分かっていて欲しかったの」

 皐月は保健室から走って出て行った。上野は耳まで赤くして、言葉を失った。少し時間が経った後、我に帰った上野は近くの布団で顔を覆った。

「マジかよ...」

 上野は皐月の手が当たっていた口を触って、さらに顔を赤らめた。



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