第36話 僕の恋敵

 3年生なだけあって、お化け屋敷はなかなかのクオリティーだった。上野はリアクションの薄い方なので、内心驚いていても、それが外に出ることはあまりない。唯のことについて以外は。

「先輩、ありがとうごさいました。楽しかったでしょ?」

「うん。思ったより怖くてビックリした」

「もう、お化け出てきた時に抱きつく作戦だったのに...」

 美奈の呟きは上野には聞こえなかった。

「先輩?」

 ただ単に美奈の声が小さかったこともあるが、それ以上に上野の目を引きつけたものがあった。上野の視線の先には、見たことのない男。身長は180ほどか。なかなかのイケメンである。そして、その男の横に、

「唯...?」

 唯の事情からして、人との付き合いはあまり無いはずだが。まして、男は準備期間の一件もあり、避けていたはず。咄嗟に上野はスマホを取り出した。

「もしもし?」

『もしもし。どうしたの?』

「皐月。唯が男と一緒にいるんだけど、大丈夫なのか?」

『えっ!?.....あー、もしかして、身長大っきい?』

「うん、180くらい」

『それ、私達のいとこ。そー言えば、今日来るって言ってたわ。安心しなさい。事情ちゃんと分かってるから』

「そう...なのか」

『ていうか、あんたどこにいんのよ。どこ探してもいなかったんだけど』

「え?3階にいたよ」

『3階?唯...』

「皐月?どうした?」

『ああ、なんでもないわ。それと、1つだけお願いがあるの』

「何?」

『そのいとこ、昔から唯のことが好きなのよ』

「なっ!?」

『唯自身は知らないんだけど、私は本人から聞いたわ。流石にないと思うけど、何かあるかもしれないから、気にかけといてもらいたいの。あと.....』

「まだ何かあるの?」

『明日、私と校内回りなさい』

「え?」

『明日!!私とデートしなさい!!』

「何言って...」

「先輩?どうかしたんですか?」

「えっ!?いや、大丈夫」

『もしかして、まだ後輩の女の子と一緒にいるの?』

「なんで知ってんの!?」

『唯から聞いたわ。可愛くて巨乳らしいじゃない』

「きょっ!?やめろ!」

『何よ。どうせ、鼻の下伸ばしてチラ見してるんでしょ?』

「してないよ!!」

「先輩?本当に大丈夫ですか?」

 不意に美奈を見ると、身長に対して大きすぎる実の谷間が上から見えて、上野は咄嗟に目を逸らした。

「先輩。今、見ましたね?」

「見てない見てない!!胸なんて見てない!!」

「胸?私、胸なんて一言も言ってないんですけど?やっぱり見てたんですね〜?」

 またしても、からかうように上野を下から見上げる。

『ちょっと。今、私と電話してんの忘れてるわね?』

「いやいや。じゃ、じゃあ、また明日な」

 ツーツーツー...。

「せんぱーい。イケないですよ?後輩の胸見て興奮しちゃ」

「してないって!!!」

 上野は、廊下の向こうで楽しそうに話す唯と唯のいとこを見て、胸のざわつきを感じていた。

(いとこ....か。大丈夫、強気になれ)

 自分の不安よりも、準備期間のことを思い出した上野は、唯の不安も感じていた。



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