第32話 後輩ちゃん

 色々あった準備期間も終わり、とうとう学祭本番の日となった。

「それでは、第◯回学祭を開催しまーーーす!!!!」

 オオーッ!!という歓声が上がり、早速一般公開が始まった。始まるなり、外で待っていた一般客がゾロゾロと中に入ってくる。

「最初何行くー?」

「かき氷行こっ」

「2-4面白そうじゃない?」

「3-1もお化け屋敷だって〜」

 楽しそうな声を聞きながら、上野は屋上で寝転がっていた。

「まだシフトまで2時間あるし、十分寝れるな」

 一緒に回るような友達もなし。彼女もなし。無駄に使える金もなし。なら、シフトが来るまで寝ているのが得策。と思っていた矢先、携帯が鳴った。

「もしもし」

『直也!?どこにいるの!?』

 いきなりの大声。相手はもちろん唯。

「どこって...屋上だけど」

『屋上!?何してんの!もう始まってるんだよ!?』

「分かってるけど、金ないし、誰にも誘われてないし。シフトの時間まで寝てよっかなって」

『ちょっと!せっかくの学祭なんだから楽しもうよー!今からそっち行くね』

「え、ちょっ...」

 ツーツーツー...と、電話は切れてしまった。

 程なくして、ガチャと屋上の扉が開いた。

「唯、早かったな」

 そう言って上野が扉の方を見ると、そこには見知らぬ少女。学祭のクラスTシャツを着ているので、この学校の生徒だが、見たことのないTシャツなので、多分別の学年だろう。

「あ、ごめんなさい。人違いでした」

「...先輩。久しぶりですね」

 長いポニーテールの先を右肩に乗せた小柄な可愛い子。そんな子が上野に向かって、

「先輩!?ごめん、誰だっけ?」

「忘れちゃったんですか、直也先輩?」

 名前を知っているということは、誰かと間違えているという事ではない。

「ほら、同じ中学校で、仲よかったじゃないですか〜」

「もしかして、美奈ちゃんなの?」

「へへっ、やーっと気づいてくれた。私のこと忘れちゃったかと思いましたよ」

 美奈は嬉しそうに髪の先を触りながら顔を赤らめた。

「久しぶりだね。この学校に進学してたんだ。全然気づかなかったよ。それに髪の毛伸ばしたんだね」

 上野が知っているこの少女、小田切美奈は中学校の頃は確かショートカットだったはず。顔も少し大人びていた。

「それにしても、こんな所で何やってるんですか?」

「いや、ちょっと寝ようかなって」

「学祭中ですよ!?遊びましょうよ!私、お化け屋敷行きたいんです。一緒に行きませんか?」

「ごめん。人を待ってるんだ。一緒に行けない」

「その人って、もしかして北川唯さんですか?」

「そうだけど、何で知ってんの?」

「なんかこの前チラッと耳にして。2年の可愛いショートカットの先輩が、直也先輩と一緒に登校してるって」

「あー...それな。誤解だよ。丁度校門から入ってくるタイミングが被っただけ」

「そう...なんですか。....私、その人と会ってみたいです」

「良いけど、何で?」

「何となくですよ」

 そう言って、美奈は微笑んだ。


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