第30話 学祭準備③

 学祭の買い物は基本的に近くのホームセンターに行く。自転車を使って行くのが普通だが、上野は諸々の理由から歩いて行くことにした。まあ、8割型が喋りながら歩きたいことだけど。

「.........」

「.........」

「あのさ」

「そういえば」

 2人が同時に喋り出す。

「あっ...直也先いいよ」

「いや、そんな大したことじゃないから。唯からいいよ」

「じゃあ...直也って、好きな子とかいるの?」

「えっ!?いや...いないよ」

「そ、そっか。いないんだ...」

「やっぱ嘘」

「え?」

「いるよ。好きな子」

 もちろんのこと、上野の顔は茹でダコ状態。

「いるの!?誰!?」

「言うわけないだろ!」

「えー。でも、他人に興味沸かない直也が好きになるなんて、どんな子か気になるな〜」

「人の気も知らないで...」

 小声でつぶやく。

「え?なんて?」

「なんでもないですー」

「えー!今絶対酷いこと言ってたでしょ!」「言ってないよ!てか、そう言う唯は好きな人いないの?」

「えー、やっぱり気になっちゃう〜?」

「めっちゃ腹立つ〜」

 上野は笑いながら唯に言った。唯も笑いながら返す。

「私もね、いるよ。好きな人。最近自分がその人のこと好きって気づいたの」

 グサッ。上野の心に刃が刺さった音がした。上野は笑顔のまま、顔に汗が滲む。

「ああー、そうだよな。高校生だし?恋くらいするよな。お互い。ちなみにだけど、その人ってどんな人?」

 折れそうな心を必死に気持ちで支えながら、かろうじて会話を続ける。

「ちょっと!今直也が聞いたんだから、次は私のターンでしょ?」

「ああ、オ、オッケー」

「じゃあ、質問ね。その子の特徴は?」

「特徴か...。最初は清純なイメージだったんだけど、話してみたらバカだし、何考えてるか分かんないし、何もかも急だし...」

「言われてる子可哀想だよ...」

「ははは。でも...」

「でも?」

「そんなところも、全部ひっくるめて可愛いんだよ。俺が今まで見たどんな子よりも」

「..........」

 黙っている唯を見て、直也は我に帰った。目の前にいる人に向かって、その人の自分が好きなところを語った。しかも、可愛いとか言っちゃったし。直也は今まで以上に顔を真っ赤にして手で顔を覆った。

「........そんなの、勝ち目ないじゃん....」

 唯が小さく言った言葉は、直也に聞こえるはずがなかった。そして、唯は直也を置いて走りだした。

「えっ!?唯!?」

「もう、先行く!!」

 男子の中でも足が遅い上野は、唯に置いてかれてしまった。

「なんなんだ...」

「あんた、何やってんのよ」

「えっ!?」

 デジャヴ。後ろを見ると、そこには皐月が立っていた。

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」

「大丈夫か?」

「うる...さい、はあ、わね...」

 息を切らしながら。

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