第29話 学祭準備②

 射的、輪投げ、ヨーヨー釣りetc...。話し合って出てきたいくつかの屋台を手分けして担当することとなった。

「そっち持ってー」

「絵の具足りそう?」

「あ、そこじゃないよ。こっち」

 話し合いの時のバラバラ感はどこへやら、クラスメイトはいい連携で効率的に作業を進めていった。


 作業開始から1週間程たったある日。ルーム長の高原が雄一のところへやって来た。

「雄一君。足りないものあるんだけど、買い出し行ってくれないかな?」

「良いよ」

「これ、欲しいもの書いてあるから。レシートよろしくね」

「はいよー」

 と言ったところで、雄一はふと考えた。そして、上野の元へと歩いて行った。

「直也ー」

「なに?」

「これ。よろしく」

「え?何これ。絵の具、板、ダンボール....。買い出しを俺に行けと?」

「ほら」

 雄一が親指で後ろを指差すと、その先には1人で黙々と作業をする唯がいた。

「えっ、もしかして...」

「そう、そのもしかして。貴重なデートの機会を持ってきてやったんだ。後でジュースな」

「ちょっと!俺まだ行くって言ってないんだけど!」

「じゃあいらねえな」

 そう言って上野の手からメモ用紙を取ろうとする。が、上野はその手をひらりとかわした。

「なんだよ」

「....行かせて下さい」

「素直でよろしい。あんまり遅すぎるとみんなに怪しまれるからな。程々にしとけよ」

「なんもしねーよ!」



 1人で作業を始めてから1時間くらいたったかな。良い感じにできてきたけど、ちょっと疲れたな。唯がそんなことを考えてる時だった。隣に人影。

「唯」

「直也。どーしたの?」

 あの日。皐月に自分の気持ちを悟られてから、唯は直也の顔を見るだけで心臓が爆発しそうだった。

「あのさ、これ。買い出し頼まれたんだけど、休憩がてら一緒に行かない?」

(なんか抜け駆けみたいでさーちゃんには悪いけど、早い者勝ちって言ってたもんね。私だって、そろそろ勇気出さなきゃ)

「唯?」

「あー!うん!行く行く!」


 学祭の出し物など、これっぽっちも興味がない皐月は、保健室でサボっていた。そして、ふと窓の外を見る。

「んなっ!?」

 そこには、姉改め恋敵の姿。そして、絶賛片思い中の相手。

「ちゃんと抜け駆けしてるじゃない!!唯は大人しいから取り敢えずは私の方が有利とか思ってたけど、油断してられないわ...」

 皐月は急いでベッドから抜け出し、靴を履いた。

「先生!具合治ったんで戻りまーす!」

「はいはい。ちゃんと青春しなさいよー」

 昇降口にある外履きをひったくり、脱いだ上履きを雑に入れる。そして、2人を追いかけて走り出した。



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