第24話 夏祭り
時刻は午後3時半を過ぎた。洗面所で髪を少し濡らして整え、ドライヤーで乾かす。服はバイトの為に持ってきた何着かしか無いので、その中からお気に入りのものを着た。
そうこうしているうちに、4時過ぎとなっていた。
「もうそろそろ集合の時間だな...ちょっと早めに行くか」
集合時間はまだだが、上野はホテルの入り口へと向かった。しかし、ホテルの入り口には先客がいた。見慣れない浴衣を着たショートカットの女の子。
「やっほー。早いね。まだ4時半になってないよ?」
「なんか、ね。浮かれてんのかな」
「さーちゃんまだかな」
2人きりのデートだと思っていたのに。なんて、さすがに口には出せない。
10分ほどたってから、こちらも浴衣姿の皐月が現れた。
「あんた達なんでそんな早いのよ」
「なんかウキウキしちゃってねー。お祭りなんていつぶりだっけ?」
「忘れたわ。そんなことより、電車あるんだから、そろそろ行かないと」
「俺は小学生ぶりだな」
「あはははは。直也は友達少ないからねー」
「余計なお世話だよ!早く行くぞ」
上野は1人で歩き出した。
「待ちなさいよ、直也!」
皐月も後を追う。
“直也”
(なんでだろう。さーちゃんがそう呼んだだけで心が騒つく。...ていうか、さーちゃんと直也ってそんなに仲良かったっけ?)
騒つく心を抑えて、唯も2人の後を追った。
夏祭りの会場に着いたのは5時になってからだった。5時とはいえ、もう屋台は出ており、客も大分いた。
「あ!焼きそば食べたい!」
「りんご飴あるじゃない。私結構好きなのよね」
「唐揚げ!あっ、あっちにトルネードポテト!」
この姉妹と祭りって、もしかしたら結構ヤバいかもしれない。
「おい!あんま離れるなって!」
その時だった。
「あれ?直也?」
聞き覚えのある声。後ろを振り返ると、そこには雄一と零がいた。
「やっぱり直也じゃん!どうしたん?夏休みはバイト三昧って言ってたのに」
「いや、気分転換に1日だけね」
「1人?」
あっ、ヤバい。ただえさえ雄一には唯の事が好きという事が知られている可能性がある。ここで一緒に祭りに来てるとなれば、完全にバレる。
「う、うん。そう、1人」
「直也?何やって...」
後ろからこちらも聞き覚えのある声。
「北川さん!?...って、皐月か...」
「なんでちょっとがっかりすんのよ」
「もしかして、北川さんの双子の妹さん?話聞いてるよ。初めまして」
そう言って、雄一は握手を求める。
「ひっ」
差し出された手に少し怯え、上野の後ろへ隠れる。上野は皐月が男と接しているところを初めて見たが(父親は除く)、これほどとは。
「ごめん、雄一。色々事情があるんだ。握手はまた今度にしてあげて。悪気はないから」
「そっか。ごめんね。とりあえずよろしく」
「え、ええ。よ、よろしく」
「じゃあな、直也」
「うん、またね」
そう言って2人は去って行った。
「あの2人、俺の友達なんだ。いい奴らだよ」
「ごめんなさい。ちょっとまだ...」
「大丈夫。焦らなくてもいいよ」
皐月は上野の服を掴んだ。その時、
「あれ、2人ともどうしたの?」
「北川さん。今、雄一と零が来てたんだ」
「へー...」
唯は皐月が掴んでいる手を見た。
(なんか、心が騒つく。病気かな)
3人の夏祭りの開始と共に、唯は心のざわつきを感じ始めていた。
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