第19話 決意

「その後、私たちのところに連絡が来て、唯は帰ってきたわ。左の頬に大きな痣を作ってね。唯は気絶した後に少しだけ意識が戻ってたみたいで、その男から自分を守ってくれた男の人がいたって言ってたわ。私たちが行った頃にはいなかったけど」

「その男は?」

「バレて2週間の停学。あれだけのことをしといてたったの2週間。学校もどうかしてたわ」

「今のが、皐月が男を嫌う理由なんだね」

「ええ。男なんてみんなプライドだけ高くて、他人のことを考えないクズ。だから私は決めたの。今まで唯が私のことを守ってくれてたみたいに、これからは私が唯を守るって」

 話を全て聞き終わった上野は、複雑な感情に支配されていた。怒り、悲しみ、そしてなにより、自分がここに居ていいのかという迷い。

「俺、やっぱり...」

「ごめんなさい」

 皐月が言ったいきなりの謝罪に上野は動揺を隠しきれなかった。

「どういうこと?」

「私、別にあんたに出て行ってもらいたかった訳じゃないの。唯さ、それから男と話すのも辛いって言うようになって、ましてや触るなんて出来っこないのよ。でも、あんただけは別だった。なんでなのか、私には分からないけど、バイトの話をあんたに持ちかけたのも、あんたは唯にとって特別な存在なのよ」

「俺が!?」

「そう。あんたさ、唯が友達と話したりしてんの見たことある?」

「ない...かも」

「唯は1人で何でもやろうとする。作った関係が壊れるのが嫌だから。家族以外の誰とも知り合い以上の関係にはならない。でも、人ってそれじゃ生きてけない。変わるしかないの」

 また皐月の声が震えだす。

「直也...お願い。唯を助けてあげて。私じゃダメなの。パパでもダメ。唯を助けられるのは、あんたしかいないの」

 上野は初めて皐月と会った時から、そしてこのバイト中も、彼女を強い人だと思っていた。自分の意思をしっかり持ち、姉を助けたい一心で動くこの女の子を。でも違った。どれだけ強くても、女の子に変わりはない。この時、上野は決意した。

「姉ちゃんだけじゃないよ。お前だって、辛かっただろ。2人とも助けてみせる。大丈夫だよ。世の中には75億人もいるんだ。その中にお前らの味方になってくれる人がいない訳がないだろ?」

 上野は皐月の頭を優しくぽんぽんした。皐月の目から、今まで我慢していた分の涙が溢れ出る。

 この姉妹を、人を信じられない女の子を、必ず助けると誓った。

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