第17話 北川姉妹・origin①

 バイトが始まってから3日がたった。上野はホテルの仕事にも慣れ、どんな内容でも的確にこなせるようになっていた。

「いやー、すごい助かるよ!唯からいつもバイトしてるとは聞いてたけど、飲み込みが早いね」

「ありがとうございます。役に立てて良かったです」

 そう答える上野は後ろから視線を感じる。バッと後ろを振り返るが、誰もいない。

「おかしいな...」

「直也ー、お昼だよー」

 気がつくと12時を過ぎていた。バイトは朝の8時半から始まり、御飯時には何人かに分けて持ち場を交代するという制度だ。上野以外にも大学生のバイトが2人、従業員も何人かいたが、女性の比率の方が高かった。

 上野は昼ごはんを食べ終えた後の休憩時間には近くの公園で休むのがルーティーンとなっていた。目を閉じて、音楽を聴きながら心地よい風を感じる。


「ねえ」

 ウトウトとしていた上野のイヤホンを取り、声をかけたのは皐月だった。

「なんかデジャヴ...」

「来た時も言ったけどさ、もうそろそろ帰ってくんない?我慢してたけど、流石にもう無理だわ」

「えっと、その、俺もバイトはしないとなかなか厳しい家庭状況で。なるべくやってたいんだけどさ」

「唯とかパパはあんたのこといて助かるとか、悪い人じゃないとか言うけど、私にとっちゃ男なんて全員根は変わんないわ」

「............やっぱり過去になんかあったの?」

「関係ないわ」

「言わないと出ていかない」

「.............」

 皐月の顔が曇る。

「昔は私なんかよりも唯の方がよっぽど強かったのよ。あの短い髪の毛も、その時の名残。私さ、いじめられてたのよ。中学の時。何言っても反応しないからウザいって。最初は女子の軽い嫌がらせ程度だったわ。けど、だんだんエスカレートしてった」

 少しずつ皐月の目に涙が浮かぶ。次第に声も泣き声になってきた。

「そんな時よ。唯はその女子たちから私を守るようになった。授業の時以外は唯と一緒にいて、私が女子になんかされそうになるたびに怒ってた。唯のおかげで嫌がらせも減って、私たちは高校に入った。でも、本当の地獄はそこからだったわ」

 皐月は今にも崩れ落ちそうなくらいの泣き声で姉妹の過去を語り始めた。

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