第16話 バイト開始

 昨日の晩に唯から送られてきたマップを頼りに、上野はホテルへと着いた。

「ごめんくださーい...」

「やあ!久しぶりだね!上野君」

 受付で待っていた唯の父親が声をかける。

「あの、今日からですよね?バイト」

「うん!唯から話は聞いてるよ。こっちとしても、女の子しかいないから力仕事とか大変でね。人手が増えるのはとてもありがたいことなんだよ。来てくれてありがとうね」

「いえ、僕の方こそ、バイト先がなくて困っていたので。こちらこそありがとうございます」

「うん。じゃあ、大きい荷物は家の方に置いてきて。唯がいるはずだから、どの部屋使えばいいか聞いてね」

「分かりました」

 ホテルのすぐ裏にある唯の家へと向かう。ぱっと見旅館に見えるほどのその家は、上野には理解できなかった。

「あっ、来た来た。こっちだよー」

「おはよう」

 我ながらなかなか自然に挨拶できたと、上野は自分に感心する。

「おはよう。パパには会った?」

「うん。荷物置いてこいって」

「じゃあ、直也の部屋案内するね。ついてきて」

 唯に連れられて二階の部屋に着いた。

「でか...」

「布団は押入れの中に入ってるからね。じゃあ、荷物置いたら下来てね」

 そう言って、唯は下へと降りていった。

「もしかしてだけど、北川さんって結構なお嬢様だったりするのかな」

 荷物の中から必要なものだけを小さいバッグに入れ、部屋を出ようとする。その時だった。

「ねえ」

「うわっ!!」

 皐月だった。

「あんた、なんでいんのよ。ここ私ん家なんだけど」

「あ、えっと、今日から泊まり込みでバイトすることになったんだけど、聞いてなかったかな」

「ああ、そういえば昨日唯が言ってたわね。でもなんで泊まり込みなのよ。毎日来ればいいじゃない」

「北川さんに提案してもらったんだ。毎日電車乗ってくるのは大変だからって」

「あんたさ、この前も言ったけど、唯になんかしたらタダじゃおかないわよ。本来なら家にパパ以外の男入れるだけでも吐き気がするわ」

「それなんだけどさ、この前も言ってたよね」

「あんたには関係ないわ。バイトならまあいいけど、使えないようなら速攻出てってもらうから。あと、これから私には話しかけないで」

「えっ...」

 そう言い残して皐月は去っていった。最近は友達もできて、人の気持ちが分かってきたと思っていた上野だが、この皐月の言葉はうまく理解できなかった。

「とりあえず、バイト頑張ろう」

 上野はホテルへと向かった。

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