第15話 暑い夏の日

「えー、皆さん、くれぐれも事故や怪我のないように。この学校の生徒という誇りを持った生活を送るようにしてください」

 高校生活恒例のイベントである、校長の長々とした話も終わり、生徒達は笑顔で帰っていく。そんな中、上野は教室で浮かない顔をしていた。

「どうしよう...」

 上野がまだ幼い頃に両親が離婚し、母親の方で暮らすこととなったが、その生活は決して裕福とは言えず、一般的に言えば貧乏と言われるだろう。そんな上野は毎年、夏休みになるとバイトを入れている。しかし、いつも働いていた親戚の人が店長をしている店が店長の病気によって閉まっているせいで、バイト先がなかったのだ。

 そんな上野の様子にいち早く気づいたのは唯だった。

「直也、どーしたの?」

 上野は反射的に顔を手で隠す。

「いや俺さ、長期休暇中はバイトしてるんだけど、いつも働いてる店の店長が病気になっちゃって、店やってなくてさ。バイト先どうしようか迷ってるんだよね」

「あはははは。直也、私ん家が何やってるか忘れたの?」

「もしかして?」

「うちで雇ってあげましょう!」

「本当に!?ありがとう!」

 バイト先が見つかった上に、そこは好きな子の家。最高。

「なんなら泊まり込みで働いてくれればご飯付きだよ〜?ちょっと大変だけどね」

「是非行かせて下さい!!」

「明日からでいい?朝8時過ぎに電車あるはずだから。場所覚えてる?」

「んー、なんとなく...かな」

「じゃあ場所送るよ。えっと、ラ◯ン交換してなかったよね?はいっ、QRコード」

「えっ、ああ、うん」

 思っても見なかったチャンスに戸惑いながらも、上野は帰ってから唯のラ◯ンをゲットしたことに喜びを隠せなかった。


「おとーさん、募集してたバイトさん見つかったよ」

「本当か!誰だ?唯の学校の子か?」

「この前きた上野って子。覚えてる?」

「あー!覚えてるぞ!あのもの静かな感じのいい子だな!」

「うん。でさ、毎日電車で来るのも大変だと思うからさ、家の空いてる部屋あったじゃん?そこ使って泊まり込みで夏休み中働く感じでもいい?」

「おう!いいぞ!人手が増えるのはありがたいからな!よくやったぞ、唯!」

「ねえ」

 唯の後ろから皐月の声がした。

「唯さ、あいつとデキてんの?」

「ええ!?」

「なんだと!?そうなのか、唯!?」

 父親も食いつく。

「ち、違うよ!直也の家は大変なの!だから、その、協力というか、ギブアンドテイクというか...とりあえず、付き合ってないから!!」

「ふーん。"直也"ね。私は反対だわ。あんなことがあったのに、男を家に上げるなんて」

「直也は大丈夫だよ!」

「だといいけど」

 こうして、上野のバイト生活が始まった。

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