第12話 中間テスト③
「ここは、sinθだからy÷rになるんだよ」
さすが。学年トップの成績は伊達じゃない。そう上野に思わせる田中は、残りの2人に効率よく、分かりやすく三角関数について教えている。勉強を始めて2時間ほどがたった。秋本は案の定心配していたが、女の子をあしらっていたら遅れたということで納得してくれた。雄一のことを名前で呼ぶ上野を見て、秋本は自分も名前で呼んでくれていいと言った。雄一に続いて2人目の友達を得たわけだ。
「もう7時半だし、飯食って帰ろうか」
田中の提案に2人も賛成し、近くのラーメン屋で晩飯を済ませ、上野は家へと帰った。
深夜から早朝にかけてシフトが入っている母親は帰ってきていない。上野は慣れた手つきで野菜や肉を調理し、立派な肉じゃがを作った。
「よし、これで明日の朝飯もオッケーと」
家事を済ませ、風呂に入る。そこで上野は今日の出来事を思い出して少し微笑んだ。
それから2週間が経ち、中間テスト当日になった。上野はしっかりと勉強したせいか、軽い足取りで自分の席へと着いた。
「直也。おはよう」
「あ、ゆ、雄一。おはよう」
まだ何気ない挨拶は苦手だった。
「ちゃんと三角関数の復習したか?」
「うん。雄一の教えてくれたおかげで捗ったよ」
「そりゃ良かった。じゃ、がんばろーな」
「うん」
田中は自分の席へと帰っていった。
「あれ!いつのまにあんなに仲良くなったの?」
やばい、この声。優しく、けれど強い。顔が火照る。隠せ、隠すんだ。案の定、そこには唯が立っていた。
「北川さん、おはよう」
唯の顔が少し陰る。
「この前一緒にテスト勉強してさ、その時にね」
「へー。なんか下の名前で呼び合ってるから仲良くなったんだと思ってさ。コミュ障の直也でもあんな風に話せるんだね!」
「いや、さらっと酷いことを」
「あはははは。冗談だよ。でさ、提案なんだけど、今回のテストの点数で勝負しない?勝った方は...相手の言うことなんでも一個聞くっていうのでさ!」
「え!?嫌だよ!北川さんの成績知らないし」
「大丈夫だって。そんないい点取れないからさ。まあ、絶対負けるってほどの点でもないけどね」
唯がそう言った時だった。
「はーい、みんな席着きなさーい」
担任の先生が入ってきた。どうやらもうすぐ始まるようだ。
「じゃ、お互いがんばろーねー」
唯は笑顔で席に戻っていった。
「マジかよ...」
あとからやってきた顔の火照りを腕で隠しながら、上野は言った。
そして、上野vs唯の中間テスト対決が始まった。
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