第10話 大切なもの
「え?あったっ田中君!?」
2人は驚きを隠せなかった。田中の言ったことに対してというよりは、学校1のイケメンが後ろにいたことによるものだろう。
「あっ、ぐ、偶然だね。ここのス○バよく来るの?」
小柄な方の女子が何気なく聞く。
「あのさ、別に自分の身の回りのやつらの陰口とかなら好きに言っててくれていいよ。でも、なんで人が好きで一緒にいるやつの陰口まで言われなきゃいけないんだよ」
「いっ、いや、陰口とかじゃなくてね、あの子に田中君が無理して付き合ってあげてるのかなって。」
大柄の女は田中に返した。
「そうそう。なんなら私たちとー...」
「あんたら、マジで終わってんな」
田中のその一言で、女子達はそそくさと帰っていった。歩いていこうとする田中を上野は止めた。
「田中君!」
「あれ、上野君。もしかして...見てた?」
「丁度トイレから出てきたらあの人達の声聞こえてさ」
「あはは。なんか恥ずいね。幻滅したでしょ?俺さ、ムカつくと言葉違い荒くなっちゃうんだよね。昔から。隠してたんだけど、許せなくてさ」
「そんなことないよ!ていうか、本当にありがとう!なんか、今まであーいうの無視してたんだけどさ、なんかスカッとした!でも、俺の味方なんかしたせいで田中君がいろいろ言われるかも...ごめん」
田中の目にうっすらと涙が浮かぶ。上野に見られないように素早く拭き取る。
「俺はそんなの気にしないよ。上野君こそあーいうのはガツンと言わなきゃダメだよ。流石に優しすぎだって。」
こんな会話も、上野にとっては新鮮なものだった。他人に興味がない。故に誰かに庇ってもらうことも庇うこともなかった。
「それとさ、これからはお互い名前で呼ばない?これからも仲良くしたいし。」
名前で呼ぶ。こんなことでさえ嬉しく思う。
(おかしいかな、俺。)
そんなことを思う上野の心を見透かしたように田中は続ける。
「呼ばないなら勝手に呼ぶよ。それでいい?直也。たったこれだけのことでも大切だと俺は思うんだよ」
「うん、これからよろしくね。今日は本当にありがとう。雄一」
名前を呼ぶ。当たり前のようで特別で、大切なこと。上野はそんなことを思いながら雄一としっかりと握手を交わした。
「あっ」
雄一がなにかを思い出したような顔をする。
「どうしたの?」
「零のこと忘れてた」
「あー!」
上野は初めての友達と秋本が待っている席へと走っていった。
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