第11話 お姫様に新しい仲間ができる
テスト飛行の最中にやってきた東洋人のカップルは兄妹だった。
クレインの前の持ち主で、訳あってクレインを手放したのだが、タンプラー商会に買い戻しに来たときは、すでにロクサーヌの手に渡っていたというわけだ。
カップルの男の方はカズト・ミヤモト。女の方は妹のカズハと名乗った。
「では、売ってもらえないのか?」
兄のカズトが残念そうな顔でそう言った。
ロクサーヌは少し気の毒に思ったが、グランドクロス開催まで間がない。ここで参加する機体をあらためて用意するのはきつい。カズトとその妹のカズハは、悪い人間には見えないから、断るのは少々つらい。と思っていて矢先だった。リュカがロクサーヌが言い出せない事をはっきりと口に出した。
「こっちも必要で買ったものなんだ。そう簡単に売れるか。そもそも買った時より、ずいぶん手はかけているんだぜ? もう、元の機体とは別物だ」
「ちょっと、リュカ。そんな言い方しなくても……」
「はっきり言った方がいいんだよ」
リュカが遠慮なく言う。
「実際、今の時点で新しい機体を準備する時間の余裕はないんだから」
「それはそうだけど……」
眉をひそめるロクサーヌ。
とはいえ、リュカが言ったのはロクサーヌが言えなかった言葉だ。内心、少しほっとしていつのも事実だった。
「なら、上乗せして払うが駄目か?」
カズトが食い下がった。
「そういう問題じゃないんだよ」
リュカはバッサリと切った。
ミヤモト兄妹の表情が暗くなる。その二人の表情からすると何か事情がありそうなのは十分わかった。そんな二人にロクサーヌが興味を持つ。
「ねえ、なんでそんなにクレインを取り戻したいの?」
ロクサーヌが尋ねる。
「
妹のカズハが小さな声で答えた。
「お父様の……?」
「ああ、あの機体は父が設計したんだ」
兄もカズトが続けた。
「我が家は飛行機作りの名家だった。紅鶴は、家族で作り上げた傑作なんだ」
「そうだったの……」
ロクサーヌの表情が変わった。それを察知したリュカが慌てる。
「……おいおい、ロクサーヌ。やめろよな」
「いいわ!」
「まじか! うそだろ?」
ロクサーヌの言葉に兄妹の表情が明るくなる。
「でも条件があるの」
「条件?」
「グランドクロスに参加するあいだ、クレインを貸して欲しいの」
その場にいた全員が驚いた。
「大会が終わったらクレインはあなた達に返す。それでどう?」
兄妹は顔を見合わせた。
「兄さん」
「うん……そうだな」
ふたりは、言葉を交わさずに同意した。
「わかった。それでいい。ありがとう、ロクサーヌさん。貴女のご好意に感謝する。ご行為に甘えるついでにこちらからもお願いがあるのだが」
「なんだよ、図々しい奴だな……」
文句を言うリュカの腕もマヤが肘で叩く。
「僕たちを貴女のチームに参加させてくれないだろうか?」
「え……?」
「邪魔にはならない。僕は機体を知り尽くしているし役に立つと思う。もちろん妹のカズハもだ」
「いいよ」
「本当か!」
「ちょっとまて!」
「あんた、ちょっとうるさいよ、リュカ」
「うるさいって、よく知らない相手を入れるのか? しかも外国人だぞ?」
「いいじゃない。カズトもカズハも整備ができるんだよ。2人より4人。効率よくない? あんただって、チェックポイントでの整備時間は短いからきついって言ってたじゃない」
「で、でも、人数が多いと荷物が増えるし……」
「そいつは大丈夫だ。タンブラー商会の社長が、大きな輸送機を用意してくれた。荷物は十分積めるぞ。あのケチ社長にしては大奮発だぜ」
ベッソンがワイン瓶を片手にそう言った。
「二人は、クレインの元の持ち主なんだよ。これほど心強いことはないじゃないの。とにかく私が決めたんだから」
「ど、独裁だ……」
「なら多数決にしましょうよ。カズトとカズハをチームに入れる事に賛成の人は?」
マヤとベッソン、それとロクサーヌが手を上げた。
「はい、決定!」
「な、なんだよ、それ」
リュカが一人ふてくされる。そんなリュカの前にカズハが来た。
「ありがとうございます」
カズハが深々と頭を下げた。
「あ……?」
「わたしたちの勝手なお願いを聞いてくださり感謝いたします」
カズハは、顔を上げた。
丁重な礼を受けてリュカも頑なな気持ちが若干和らぐ。
「リーダーの言うことだからな……いいさ。それに整備の手が増えるのは助かるし」
「リュカさんが良い方でよかったです」
そう言ってカズハはにっこりと微笑んだ。
その笑顔をについ見とれたリュカはカズハと目が合ってしまう。慌てて目をそらすリュカ。
「ク、クレインの構造をもう少し知っときたいしな」
こうしてチームに新しいメンバーが加わった。
帝国の様々な飛行場にグランドクロスに参加する各国の飛行士たちがやって来ていた。機体の種類も様々で、飛行場には多くの見物人が集まり、着陸してくる機体の姿を見て楽しんだ。
スタートとなる首都周辺は観戦者の人々が押し寄せ、以前にもまして賑やかになっている。
それに紛れて不審な一団を乗せた輸送機と飛行機の編隊も帝国に飛来した。
見物人たちから離れた滑走路を選んで着陸体制に入る。
まず外装を装甲で補強した輸送機が着陸した。
次に飛行機たちが着陸していく。
機種は様々だったが皆、元は戦闘用だ。ただし武装は外してある。
輸送機から降りてきた連中は、険しい表情で屈強な身体つきをした者たちだ。レースに参加する飛行士や整備士たちとあきらかに感じが違う。
おまけに整備用の部品の中には大量の武器が紛れ込ませてあった。
飛行場の係員がそれに気づくと金を掴ませると黙認させた。
機内には打ち合わせに使っていたと思われる紙切れが落ちていた。
そこに描かれていたのは
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