第7話 お姫様、遭遇する
街から城にもどったロクサーヌが鉢合わせしたのはウィル・ハンコック少尉だった。
「こんなところで会えるとは意外でした」
「え、え……と、あなたは……確か、ハンコック様?」
「ウィル・ハンコック。少尉です。叔父上の下で任務についていおります。」
「ああ、ハンコック少尉。ごめんなさい。お名前をはっきり覚えていなくて」
本当は覚えていた。
だが、どうにのかして誤魔化したいという気持ちが先走ってちぐはぐな返答をしてしまう。
隣にいたマヤはわざとらしい話し方のロクサーヌを心配そうにちら見する。
「ところで姫殿下。こんなところで何を……?」
来た!
一番聞かれたくない言葉だ。
「いや、その……」
答えに詰まるロクサーヌにマヤが機転を利かせた。
「ロクサーヌさまがクッキーの焼き方を覚えたいとおっしゃったので私が教えていたのです」
「そ、そうです。えへへ」
「姫殿下がケーキを? ああ、いや、失礼」
「私もお菓子作りくらい嗜みますわ」
「活動的な方をお聞きしていましたが、多趣味ですね」
「私をどんな風に聞いていますの?」
「そうですね……とても活発で素直。だけどある面においては頑固」
「が、頑固?」
「あっ、失礼しました。ある面では意志が強いと」
きっと叔父上が言っているのだとロクサーヌは思った。
「そ、それから……」
「もういいですわ、少尉」
「飛行士としての腕は良い」
「え? 本当?」
「はい。乗組員の間でも評判になっておりました」
「そう」
ロクサーヌの機嫌が良くなった。
「少尉は何に乗っていますの?」
「叔父上の指揮下に入ってからは艦載機のフォコンに。空中騎士団にいた時には、エグルに搭乗していました」
「イグル? 最新機ではないですか! どんな機体ですの?」
顔を近づけるロクサーヌにハンコック少尉は、一歩下がる。
「そ、そうですね。出力が従来の機体よりずっと高い。離陸も容易です」
「はあ、やっぱり」
「高々度での飛行も安定しています。きっとキャブレターのバランスが絶妙にいいのでしょうね」
「私も乗ってみたい」
「すぐ、乗れますよ。だって空中騎士団の訓練に参加するのですから」
「あ……そ、そうですよね。あはは」
話は長引き、少尉の話から大陸中央との情勢を知った。空中戦艦が来たのはそれが理由だ。大会の警備にかこつけて他の戦艦も集結中なのだと言う。
横にいたマヤは最初、城を抜け出ていたことがばれないかとハラハラしていたが話に盛り上がるロクサーヌとハンコック少尉を見ているとどうやらその心配はなさそうだと安心する。
たぶんこの二人は良い友人になれるのではとマヤは思った。
なんとか疑われずにハンコック少尉と別れたロクサーヌとマヤはロクサーヌの部屋に向かっていた。
「うまくいったね」
「はい」
「でも、少尉はなんで調理場なんかに来たのかしら?」
「私も気がついた時には、近くにいた、といった感じでした。お腹でも空いたのでしょうか?」
「あはは、まさか」
「でも、少尉は良いお方でした」
「そうね。いい人かも」
「ロクサーヌ様も楽しそうでしたものね」
「は?」
「あんな顔の姫殿下のお顔を見るのは珍しいです」
「ちょっと、何言ってるの? マヤ」
「実際、少尉とのお話は楽しかったでしょ?」
「そ、そりゃ、まあ、あんまり操縦についての話は普段できないから……リュカは、飛行機については詳しいけど、飛ぶことについてはちょっと話が違うというか……」
「飛行士同士ですものね」
いたずらっぽく微笑むマヤにロクサーヌは顔をそむけた。
自分の顔が赤くなっているのに気がついたからだ。
まったく、マヤは余計なことを言って……
そんなことを思いながら中庭の見える渡り廊下を歩いていると遠くからエンジン音が聞こえた。
足を止め、反射的に空を見上げたロクサーヌの視界に白い機体が見えた。
「あれは……?」
飛行機が飛ぶのを見かけるのは珍しくないが、城のそばでは軍の機体に限定されている。その軍の機体にはロクサーヌの知る限り白い機体はない。
白い飛行機は徐々に近づいてくるようだ。次第にシルエットがはっきりしてくる。
「軍の機体ではないようですね」
マヤも気がついたようだ。
機体が識別できてきて、ロクサーヌもようやく分かった。
あれは知っている。
「なんか、ロクサーヌ様の真紅の薔薇号にかたちが似ていませんか?」
ロクサーヌの赤い薔薇号と同型機の白い機体。
その名はW・ライトニング号
帝国でも随一の貴族の一人娘が駆る機体だ。その貴族とはグランゼル伯爵。
操縦するのの娘で
偶然にもロクサーヌと同い年。
これがロクサーヌがグランゼル伯爵のプロポーズを受けない最大の理由でもある。
「ようやく着きましたわ! 私の
リファ・グランゼルは思わずコクピットの中でそうつぶやいた。
W・ライトニング号は、機体を大きくバンクさせて城の上空を旋回した
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