第6話 お姫様のチームが本格的に動き出す
中古の飛行機を扱っているタンブラー商会のモーリス・ベッソンが加わり、チームは4人になった。
ベッソンは兼業となるがタンブラー商会のボスであるジャン・タンブラーが了承しているので問題はない。それも、ロクサーヌの提案でタンブラー商会の名前を大会に参加する機体に描くことを約束したからだ。
それにより商会が機体の値引きと整備用パーツの無償提供をしてくれることになった。
さらによかったのは予算が大幅に節約できたことだった。
喜んだロクサーヌたちだったが、問題はまだ山積みだった……。
「バックアップ用の輸送機?」
「大きいものじゃなっくていい。俺たちチームが行くための飛行機だよ」
「か、考えてなかった」
「あのなぁ、チェックポイントにどうやって行くつもりだったんだ?」
「そういえば、そうだよね……」
顔を見合わせるロクサーヌとリュカ。
マヤにいたって何のことだかよく分かっていないようだった。
「部品や交換用のオイルも持っていかなきゃならないし、食料も積みたいからな」
「食料?」
「どこかに泊まれると思ったか? 到着してから宿を探す時間があるなら機体の整備だ。翌日の朝には次のチェックポイントへ向かって再スタートなんだからな」
いろいろ考えていなかったことばかりだった。
ただ酔っ払いだと思っていたベッソンの方が何十倍も賢いのだからリュカも認めざるえない。
こうして素人チームの活動が始まった。
飛行機は、借りれることになったテンプラー商会に置いた。
整備はそこですることになる。
リュカがほとんど毎日やってきて機体は整備していた。
東洋で製造された機体は、リュカが普段、目にするものとは少し違ったが、それがまたリュカの好奇心をくすぐり、夢中にさせた。
ベッソン曰く、「細かい部品に注意」
例えばネジの溝。もしかしたら規格が違うものを使っているかもしれない。
もしそうなら調達の難しい東洋の部品のレースの途中で何かあった時に備えて予備を自分たちで削り出さなければならない。
そのほかいろいろと必要な作業があるということだったが、話が脱線し過ぎるのでリュカは途中で聞くのをやめて作業に集中することにした。
リュカが機体をいじっている時、ロクサーヌとマヤは、こっそり城を抜け出してロクサーヌがもらった贈り物を金に変えることに精を出してた。
前回の反省を踏まえて他の店にも買い取り値を聞いてから一番高い店に売ることに決めていた。
そして前回。最初に立ち寄ったブロカント装飾店は最後に寄った。
そこでロクサーヌたちは思いもよらない申し出を受けることになった。
「レース資金を全額出してくれる!?」
店主は、うなずいた。
「正確には貸すんですよ。代わりに売ろうとしている品物をすべて持ってきてください。それを預かります。お金を返せないときは代わりにお預りした品物をいただくというわけです」
「売ることができないってこと?」
「いやいや、貸した金を返すことをしなければ結果的に売ったことを同じになりますよ」
「ややっこしいですね」
「まあ、本来、質屋の領分ですからね、ですけど、この方法なら買い取るよりお渡しできる金額が上乗せできると思います」
「本当ですか?」
「必要な金額をおしゃっていただければ用意いたします。ただしこちらからも少しばかり条件があります」
「なんでしょう?」
「他の店には品物を持っていかないでください」
マヤはロクサーヌの顔をちらりと見た。
ロクサーヌは軽くうなずく。
「お話をお受けいたします」
ロクサーヌの合図を見たマヤは店主にそう答えた。
「では、おいくらほど必要で?」
「かなりの金額です」
「これでも商売人です。それなりのお金はご用意できると思いますよ」
「だいたい……500万パウンドほどで」
「はあ?」
「だから500万パウンド」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい」
そう言うと店主は店の奥へ入っていった。
「やっぱり、高いんだな。一括でもらえるなら他の店にまわる手間も省けてよかったと思ったのに……」
ロクサーヌはため息をつく。
「しかたがありませんよ。また他の店を少しずつまわってお金に変えてきましょ」
「そうだな……」
しばらくすると店主が戻ってきた。
「やはりだめでしょうか? それなら出してもらえる額だけでも……」
「全額お出しいたします」
「はっ?」
店主の言葉に驚くふたり。
「全額、お出しいたします。そのかわり、飛行機にわたくしどの店の名前を描いていただきたい」
「えっ?」
「お聞きしてますよ。海沿いの店の名前を描いて出場するんでしょ? 確かに大陸獣の人の目に店の名が見られる事は商売にとってはいいことです。うちも真似したい」
「そのくらいお安いご用です!」
こうしてグランドクロスに参加するためのレース資金のあてがついた。
ロクサーヌとマヤは、喜びながら店から出た。
ロクサーヌたちが店から出たのを見計らうと店の奥から、以前ロクサーヌたちを尾行していた男が顔を出した。
店主が男に声をかける。
「あんたの主人の言う通りにしましたよ。こんなんでいいんでかね?」
「上等だ。俺の主人も喜ぶ」
男は窓ガラス越しにロクサーヌたちの後ろ姿を見送りながらニヤリとした。
城に戻ると裏口を使い中に入った。
調理場に人がいないのを見計らうとロクサーヌは、隠していた自分の服に着替えた。
「おまたせ、マヤ」
着替え終えたロクサーヌは、誰かこないか見張っていたマヤのところへ駆け寄った。
「今日は、うまくいったね」
「あの……姫さま」
「ん? どうしたの? マヤ」
「あのですね……そちらの方がさきほどからお待ちなのですが」
「そちらの方?」
ロクサーヌはマヤの視線の先を見た。
壁の向こうにた誰かが姿を現した。
ロクサーヌが知らない男……いや、見覚えのある男だった」
「ハンコック少尉?」
それは、叔父のマクマオン大佐が自分の指揮する空中戦艦に飛行士としてスカウトした若い将校だった。
「ご機嫌麗しく。姫殿下」
ウィル・ハンコック少尉はそう言ってロクサーヌに頭を垂れた。
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