第6話 治療院で救世主!?(2)

鎧の殺人鬼に手足を焼き焦がされた患者さん…。

なんとしても、ぼくが『リヴァイヴ』をかけてあげなくてはいけない。


まず最初に、アリシアさんと出会った時、アリシアさんがしてくれたように、肩に手を触れ、魔法を使おうとしてみた。

しかし、何の魔力も集まってこなかった。

それもそのはず、ぼくの魔法は童貞力を元にしているのだ。

童貞力が発揮される余地のないこの状況では、何の魔法も発揮されなかった。


司祭さんとアリシアさんがじっとぼくの方を見つめている。

数分間なにも起こらないので、いぶかしがっているようだった。


「いや~、その……アレ…… アレですねぇ……。アレかな…… アレですねぇ……」


初老のように『アレ』を連発しながら、どうにか童貞力を絞り出そうと努力してみた。

妄想でも童貞力は絞り出せるはずだ!

あのときのことを思い出すんだ!

アリシアさんのおっぱいが見えたときのこと……

大きなおっぱい…… 真っ白な肌に、柔らかそうなおっぱい……

先端には、つんとした桜色の…


「ああああああああああっ!!」


患者さんの体から魔力が引き出され、光の粒となり、回復魔法が発動した。

しかしそれは『リヴァイヴ』ではなく、上級魔法『ヒールフル』のようだった。

患者さんの体には何の変化もない。当たり前だった。『リヴァイヴ』でしか治せないと言われているのに、『ヒールフル』をしているのである。司祭さんからツッコミが入った。


「おい、なぜ『ヒールフル』を使っている!? 『リヴァイヴ』でしか治せないと言っとるんだぞ! 『リヴァイヴ』を使うんだ!」


すみません、それ、ぼくが今頭の中で考えてたやつです! ぼくも同じこと思ってます!

でも、自由には出ないんですから……


ぼくがあたふたしていると、アリシアさんが優しく話しかけてきてくれた。


「あなたは、すごい魔法が使えるけど、魔法の基本を教えてもらったことはないんですよね? どんな魔法でも、近くに近寄るほど威力が強くなるんです。わたしがあなたに手を触れたのはそのため。でも、手を触れるだけじゃなく、こんなふうに抱きしめたら、もっと威力は強くなります」


そう言ってアリシアさんは患者さんを抱え、ぎゅっと自分のもとに抱きしめた。

アリシアさんの大きな胸が、患者さんに押し当てられ、柔らかく形が変わっていた。『ぷにゅっ♡』という音が聞こえるような気がした。

ものすごく羨ましかった。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


その瞬間、アリシアさんがまばゆい光に包まれた。

そのままアリシアさんは光の柱で包まれ、アリシアさんに極限魔法『リヴァイヴ』が発動した。


「えっ!? どうしてわたしを……??」


「おい、何をアリシアを回復させておる! 患者は隣りだろ!! 何をしとるんだ!!」


本当に司祭さんの言うとおりである。何をしとるんだ。


「すみません、なんか……調子が悪いみたいで……」


思わず言い訳してしまったら、アリシアさんは優しく微笑んだ。


「いいんですよ。あなたが、なにかとても重いものを抱えていて、不安定になってしまっていることは分かっています。それなのに治療士のひとりに加えようとしている、わたしたちが勝手なんですから……。うまくいかなくても、気にしないでくださいね」


アリシアさんは優しすぎる。優しさがすごく心に染みてしまった。

その後に司祭さんが続けた。


「しかし……『リヴァイヴ』が使えるというのは本当のようだな……驚いたぞ。文献で見た通りの光の柱が立ち上がっていた。極限魔法というものが連続で使えるのかどうかわからんが……。できるなら患者に使ってみてくれ」


司祭さんの言葉を聞きながら、改めて再挑戦することにした。

アリシアさんのように患者さんを抱きかかえる。魔力を集めようとする。

しかし何も起こらないまま、また数分が過ぎていった。


「……何も起こらんではないか?」


司祭さんがいぶかしげな顔でぼくを見ていた。

アリシアさんは心配そうにしている。


「緒音人さん、無理しなくていいんですよ?」


ふんばろうとしていた時、アリシアさんの『緒音人さん』という名前呼びがとても胸に響いた。アリシアさんの透き通った声で名前を呼ばれると、とても嬉しいような、むずがゆいような……。

もっと近くで、その声を聞かせてもらえたら……

その時、絶対に極限魔法が使えるようになる妙案を思いついた。


「す、すみません、アリシアさん……。ちょっと、ぼく自身に『ヒール』をかけてもらえますか?」


「え、『ヒール』ですか?」


「自分でかければ良いではないか」


司祭さんが余計なことを言う。素人は黙っとれ―――


アリシアさんが近づき、ぼくの肩に手を触れ、『ヒール』をかけようとしてくれた。そんなアリシアさんを制し、「もっと強力にお願いできますか?」と伝える。アリシアさん、ごめんなさい。


「こう……ですか?」


患者さんを抱きしめるぼくを、背中からアリシアさんが更に抱きしめてくれた。

柔らかな胸の感触が、背中を通じて伝わる。間違いなく、『ぷにゅっ♡』という音が聞こえた。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


ぼくの絶叫とともに、患者さんが光の柱で包まれた。

焼け焦げて真っ黒だった腕が、足が、みるみるうちに再生していく。

数秒後には、完全に元通りの姿になっていた。


「おおおっ! おおおおっ!」


患者さんは、今まで動かなかった手と足が動くようになったことに涙を流し、ひとしきり手足を動かしてそれを実感した後、強くぼくを抱き返してくれた。


「ありがとう、ありがとう……。まさか治るとは……諦めていたのに……まさか、また手足が動かせるようになるとは……。ありがとう……あなたは私の恩人だ…」



患者さんの言葉に、ぼくも胸がいっぱいになった。

よかった……。よかったですね……。

この方法なら、無限に全員を治療していけるはずだ。

なんだかアリシアさんには申し訳ないけど、治療にはこの方法しかない。

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