第5話 治療院で救世主!?(1)

「極限魔法『リヴァイヴ』が使えるだとぉ!?!?」


司祭さんは大声を上げた。


アリシアさんと鎧の殺人鬼から逃れ、フルミエルの街にたどり着いたのが2時間ほど前。

街から10キロほど離れたところに王都があるらしく、王都に一番近いこの街はそれなりに発展していて、レンガでできた街並みはとても美しく整然としていた。


市場も活気づき、人々も生き生きとしていて、鎧の殺人鬼のことなんてまるで無縁な、素晴らしい生活空間に思えた。


ひとしきりレンガの街並みを歩いた後、アリシアさんの治療院にたどりついたぼくたちは、まず治療院の代表である司祭さんのところに報告に行くことになった。


報告することはみっつ。


ひとつは、街外れでぼくという謎の人物を拾い、ここで養ってほしいということ。


ひとつは、鎧の殺人鬼をどうにか撃退したこと。


そして最後のひとつが……ぼくが、極限魔法を使える……使ってしまったということだった。


鎧の殺人鬼に黒焦げにされたアリシアさんを『リヴァイヴ』で回復させたという話に、司祭さんが大きくくらいついた。


「にわかには信じられん……。わしはもう40年も生きているが、極限魔法の使い手には巡り合ったこともない。我が国、グリオールでは、数十年前に最後の極限魔法使いが亡くなってから、『まともな』使い手が生まれていない……」


まともな、というのは、鎧の殺人鬼がいるからということだろうと思われた。

あの人物もこの国の出身だろうと言われているらしいが、快楽殺人のような行為を繰り返す理由は謎だということだった。


「もしもお主が……本当に極限魔法を使えるのなら、この国の救世主に成りうる。これまで治癒できなかった患者を治せるようになり、そして……」


司祭さんはぼくの目を見つめた。


「戦争にも、お主の力が大きく関わってくることになる」


「そんなことはやめてください……!」


アリシアさんが司祭さんを制した。


「この方には、なにか複雑な事情があるようなのです。わたしと初めて出会った時も、何度も何かを思い出し、絶叫してうずくまっておられました。この方は悩まれる客人です。戦争なんかに……巻き込んだりすることはやめてください!」


絶叫したのは、完全にアリシアさんのおっぱいを見てのことだったのだけど、アリシアさんはめちゃくちゃ勘違いをしてしまっているようだった。


司祭さんはぎろりとぼくとアリシアさんを交互に見ながら、「しかし……」と続けた。


「もしも本当に極限魔法が使えるのなら、戦争はともかく、治療院にいる間は、治療に協力してもらおうか。なにしろ、アリシアが使える中級魔法『ヒール』程度では自己回復力を上げるのみ。わしが使える上級魔法の『ヒールフル』では、多少の傷なら消し去るほど回復できても、致命傷は不可能、ましてや後遺症の残るような重度の患者には、何も手を出せないのが現状だ……」


そして、それまでよりも更に強くぼくをにらんでこう言った。


「それが極限魔法『リヴァイヴ』なら……! たとえ腕がちぎれても、どんな致命傷であっても、まだ生きている状態なら、完全に元通りのところまで回復させられる……! まさに究極の回復魔法だ。それを使えるなら……いつまででも、ここにいてもらって構わん」


『リヴァイヴ』は、そんなにすごい回復魔法だったのか…。

アリシアさんのおっぱいを見て偶然使えた魔法だったけど、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。


「とにかくお主はこっちに来い。アリシアもついて来るんだ」


司祭さんは、ぼくたちを治療院の奥へと連れて行った。

治療院には数多くのベッドが並び、多くの傷を負った人々がベッドで治療を受けている。


『ヒール』で治るような人たちは、1日に数度ヒールをかけ、自己回復力を上げて傷を治癒していくらしい。これなら治療費も安く済むそうだ。

また、『ヒール』で治らないような重症患者は、『ヒールフル』で司祭が治癒していく。上級魔法の使い手は少ないため、これは治療代も高くなるらしい。

そういうところは、なんだか現代の病院に似ているなと思った。


司祭さんは治療院奥の扉を開けた。


そこには、司祭さんの「回復させられない」という言葉を裏付けてあまりある、目を覆うほど凄惨な状態が広がっていた。


無数のベッドに並ぶ患者さんたちは、誰も彼も、信じられないほど深い傷を負った人たちばかりだった。


司祭さんは、ぼくの目の前のベッドにいる、両手両足が焼け焦げた患者さんを指さして、

「鎧の殺人鬼の被害を受けた方だ。かろうじて生き延びてくださったが、わしには、両手両足の治療ができん……申し訳ないことをしてしまっている……」

と、歯噛みしながら教えてくれた。


他のベッドにいる患者さんたちも、みな似たような非常に深い傷を負っていた。その理由は事故などさまざまらしいが、鎧の殺人鬼の被害者も少なくないらしい。

そう語るときの司祭さんはとても悔しそうな顔をしていた。


司祭さんも、アリシアさんと同じく、治療に命を懸けているいい人なんだ。

なにか、ぼくにできることがあれば……。


「お主が『リヴァイヴ』を使えるなら、ここの患者たちを治療してまわってくれんか。無論、1日に何度も極限魔法を使える人間などそうはおらんだろう。1日に1人でも構わん、どうにか治療してほしい……」


え、極限魔法って1日に何度も使えないようなものなの!?

司祭さんやアリシアさんの魔法も、1日に無限に使えるわけではないのだろうか……

ぼくは……極限魔法を使ったときのこと(おっぱいを見た時)を考えると……何度でも……使えそうなんだけど……。これはぼくの中に1000年溜め込んでいる童貞力のおかげなのだろうか……。


司祭さんはじっとぼくのことを見つめていて、アリシアさんもその後ろから、ぼくのことを見つめていた。


「いいですよ。どこまでできるかわかりませんが……できるだけやってみます!」


ぼくは司祭さんとアリシアさんの前でガッツポーズをした。

司祭さんは真剣な眼差しでぼくを見つめ、アリシアさんの顔はぱぁっと笑顔に輝いた。


「もしもあなたが、ここにいる患者さんたちを『リヴァイヴ』で治癒してくださったら……。わたし、本当に感謝してもし尽くせないくらいです。ずっとずっと、自分の非力が悔しかったですから……」


アリシアさんの目は期待と感動にうるんでいた。

こう言われると、もしもできなかったら……と考えたら、すごくプレッシャーになってしまった。


「ま、ま、まずはこちらの方、1名様、はいります」


なぜか緊張のあまりファミレスのような案内を自分で自分にしてしまい、余計ぱにくってしまいながら、さっき司祭さんに『鎧の殺人鬼の被害者』と言われていた、両手両足が焦げてしまった患者さんのところに行った。


いかにも、苦しそうな様子だった。ぼくは大きく息を吸って、患者さんの体に手を当ててみた。

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