第4話 稲妻の殺人鬼と、おっぱいで極限魔法(2)
ぼくが放った極限魔法『ライトニング・テンペスト』の稲妻が終わり、むせ返るような焦げた煙の中、鎧の人物は―――まだ立っていた。
あれだけの稲妻を受けて!?
生きているなんてありえないと思ったが、よく目をこらしてみるとその理由がわかった。
鎧のあちこちが、ばちばちと帯電している。まるで本体から身を守り、外に電撃を逃がすかのように。
雷を得意とする魔法使い―――
それなら、自分を守るために、雷に耐性がある鎧を身に着けていてもおかしくなかった。
多少の衝撃はあったかも知れないが、こいつに雷の魔法は効かない…
鎧の人物は怒りにあふれる素振りで、また右腕を空高く掲げ、雷雲を指さした。
『ライトニング・テンペスト』を使うつもりだった。
どうすればいい?
向こうには稲妻は効かないかも知れないけど、ぼくたちに稲妻を打ち込まれたらもうお終いだ。
防御できればいいけど、防御の魔法ってなにかある!? わ、わからない……。
どんな物からでも魔力を集められるのは間違いない。
あいつをふっとばしてしまえればいいんだ!
それも、超強烈な風で……!
ぼくは風の魔力を集めるべく両手を広げ、強く心に風の魔力をねじるイメージをしてみた。
一瞬にして両手に魔力が集まり、緑色の光が輝いていく。その姿を見て、アリシアさんが叫んだ。
「まさか―――! か、風の極限魔法、『ブラスト・エアレイド』ですか!?」
そうか、風の極限魔法は『ブラスト・エアレイド』というのか。今知った! 助かった!
ぼくは両手に集まった光の粒をまとめあげ、鎧の人物に向かって叩き込んだ。
「極限魔法、『ブラスト・エアレイド』!!」
考えられないほどの暴風が一瞬にして手から飛び出し、鎧の人物を襲った。
立っていることなど到底不可能な風に、鎧の人物は吹き飛ばされ、遥か彼方へと飛んでいく―――。
やった……! とりあえずこれで、反撃を受けることはないはず……!
しかし、ぼくの脳裏に、鎧の人物が初めて現れたシーンが思い浮かんだ。
雷雲の中、風を操り、サーフィンのようにこちらに飛んでくる姿―――
あいつだって風の魔法を使える。
どこまで飛ばされたかわからないけど、ここに戻ってこられるのは間違いない―――
「アリシアさん! 早く街まで逃げましょう! 案内してください! ここにいたら危険です!」
「はっ、はい……」
アリシアさんはぼくの声に立ち上がったが、破れた服からこぼれていた右胸は、もうしっかり腕で隠されていた。
おっぱいが……
おっぱいが見えなくなってしまった……!!
あんなにきれいなおっぱいが……!!
たゆんとした、白くて柔らかそうな、可愛らしいおっぱいが…
ぼくは急激に自分から魔力が散らばり無くなっていくのを感じていた。
「わたしの街は、先ほど示したこちらの方向にあります。でも、歩いていくと、一時間くらいはかかってしまいますよ。もしもあなたが―――」
アリシアさんはそこで一度言葉を切った。
「あなたが、極限魔法までも使える魔法使いなら、上級魔法の『グライディング・ウインド』で、風に乗って移動することができます。そのほうがずっと速いです」
『グライディング・ウインド』とは、さっきあの鎧の人物が雷雲の中をサーフィンしてきた魔法だろうか。
確かにそれが使えれば、こんなに速く移動できる方法はない。
吹き飛ばされた鎧の人物も、きっと『グライディング・ウインド』で追ってくるだろうし、同じ速度で逃げれば、追いつかれることもないだろう。
しかし………
アリシアさんのおっぱいが隠されてしまった今、とてもではないが、上級魔法なんて使える気がしなかった。
それどころか、魔法自体も使える気がしない。
けれども、このままここに居続けることは極めて危険だった。
「よーーーくわかりましたアリシアさん!」
「ですよね……。早く、ここから離れたほうがよさそうです。ですから……」
「ですから、走りましょう!」
「え……?」
アリシアさんは呆気にとられていた。
さっきまで極限魔法を連発していた男が、いまや上級魔法をケチり、徒歩で村に向かおうというのだ。誰だって不思議に思ってもおかしくない。
「走りましょう! 早く村まで! 健康にもいいし! とにかく早く走って逃げることです!」
「は、はい……? はい……」
アリシアさんは混乱しながら、とりあえずぼくに従った。
歩いて1時間の距離。果たして、追いつかれずに逃げ切れるのだろうか……?
そして、一番気になるのは…
「あの鎧の人物の正体は、一体何なんですか?」
走りながらぼくは尋ねた。
アリシアさんも、手で胸を抑えながら一生懸命走りつつ、ぼくの問いに答えてくれた。
「あの人物の正体は誰にもわかりません。でも、あの人物は、この世に数えるほどしかいない、極限魔法の使い手であることは間違いないんです。普通は上級魔法でも使えたら、国のお抱えの魔法使いになってもおかしくないのですが、それより上の極限魔法を使いながら……使うことができながら……」
アリシアさんは言葉を切った。
「あちこちで、ああやって、人を傷つけて……殺して……遊んでるんです……。今まで、わたしの治療院にも、何度も焼き焦げた人たちが運ばれてきました。わたしはあの人の心が理解できないんです。わたしは……」
アリシアさんはぐっと言葉を飲んだ。
「あのひとにあんなことを辞めさせたい……。人を傷つけて遊ぶことなんて……何の意味もないって、わかってほしいんです……」
アリシアさんの言うことはもっともだった。
しかし、相手の様子からして、快楽殺人犯のような、シリアルキラーのような人物であることも間違いなかった。
こっちの世界にもそういう人物がいるんだ。
だとしたら―――それを説得することなんて、ほとんど不可能に近いに違いない。
あいつだって、きっと、そんなことは理解していながら、こんな残酷なことをしているのだから…。
ぼくが返答できないでいると、アリシアさんが続けた。
「わたしは…… あっ!」
胸を抑えた不自然な姿勢で走っていたものだから、アリシアさんがつまずいて転んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
そしてその時、一瞬だけだけど、またおっぱいが見えてしまった。
柔らかそうな白い肌に、どこまでも無限に柔らかそうな大きなおっぱい―――そして桜色に染まった先端の……
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!」
ぼくの全身に周囲からの魔力が集まり、あっというまに光の粒があたりを覆い尽くした。
ぼくは鎧の人物が乗っていたサーフィンのような風を思い出し、両手を広げて、再現できないか光の粒に念じてみた。
簡単に光の粒は緑色に光る船のような形になり、ぼくたちもそこに乗ることができそうだった。
「アリシアさん、これに乗っていきましょう」
「え!? さ……さっき、健康にいいから走ろうって……」
「いや、もう健康かなと思いまして…よくよく考えたら…」
「は、はい…… いいんですか?」
「全然いいでしょう。どんどん魔法は使っていかないとね」
さっきとはまったく反対のことを言いながら、ぼくとアリシアさんは風の船に乗り、一路アリシアさんの村を目指して飛び立った。
地平線の向こうに飛ばされた鎧の殺人鬼が、ぼくたちに対して決して消えぬ強い殺意を持ち、これからもずっと付け狙ってくることになるだろうということは、想像できそうなことだったが、この時は考えたくもなかった。
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