第2話 おっぱいな出会い
どれくらいの時間が経ったかわからないまま、ぼくがうとうとと瞼を開けると……本当に1000年ぶりに自分の体を使い、『まぶたを開けて』『前を見る』という作業を行ってみると……
眼の前にあったのは、ものすごく大きなおっぱいだった。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!??????」
ものすごく大きな絶叫を上げてしまった。
眼の前には、看護婦さんのような格好をした美しい女性がおり、ずっと倒れ込んでいたぼくを心配そうな顔で見つめていた。肩までのきれいな髪が風に揺れている。
そして看護婦さんの胸には、見間違えようもない、Hカップくらいのおっぱいがずっしりと佇んでいた。
「lkfpdskfjopdksogpkopkopdkp」
看護婦さんはぼくに向かってなにか言ってきているけど、なんだかまったく分からない。異世界だから、言語が通じないのだ。
周りを見渡すと一面の草原。草の香りが気持ちいい。空は青空だ。とても気持ちいい。しかも目の前にはおっぱいまである! これもまた気持ちいい。
「ほ、本日は、よ、よいお日柄で……」
とっさに意味不明な挨拶をしてしまったら、看護婦さんは不思議そうな顔をしながら、自分のポーチの中から耳栓のようなものを取り出し、ぼくの耳につけてくれた。
「これで、わたしの言葉が聞こえますか?」
耳栓を耳につけると、急に彼女の言葉がぼくにも分かるように変換された。すごい! なんの道具、これ?
「あ、あの、よく聞こえてます! この道具なんですか?」
そして、すごく素敵なHカップに目がいってしまった。
「そして、Hカップですね!」
「え……?」
しまった!!
1000年間、ほとんど独り言で過ごしてしまっていたから、とっさに頭の中にあったことがそのまま口に出てしまった!
もう完全に変態確定だ!!
ぼくがわたわたと慌てていると、女性は優しい微笑みでぼくに話をしてくれた。
「これは、国が違う人たちの言葉を通訳するための魔法道具なんです。とても数が少なくて、珍しいものなんですよ。どこか遠いところから来たんですか? 体に怪我はないですか?」
女性はずっと優しく微笑みながら、ぼくをいたわるようにひとつひとつの言葉をかけてくれた。それだけで、この女性がとても優しい人なんだと分かり、すごく安心してしまった。
それなのに、いきなりHカップなんて声をかけてしまったとは……。この女性は一体どう思っているのだろう……と考えていたら、女性のほうからそれを尋ねてきた。
「ところで……Hカップってなんですか?」
どうやら、この世界ではブラジャーが存在しないか、カップ表記が元の世界とは違うらしかった。ありがたい!! 助かった!!
「Hカップというのは…… その…あれ… なんでもないんですけど…… その…… すごくあたたかな、優しい人っていう意味です!」
とっさの言い訳と、いま、この女性に対して感じた感情がごっちゃになり、意味不明なことを言ってしまった。女性は優しく笑った。
「あはは、まだわたしは、そんなふうに言ってもらうにはもったいない、修行中の身ですよ」
女性はポーチを締めながら優しく続けた。
「でも、ありがとうございます」
女性は可愛らしく微笑んだ。ぼくの心臓が高鳴った。
「ぼ、ぼくは……緒音人(おねひと)って言います。あなたは、なんて言うんですか?」
女性はぼくの目を見つめて、にっこりとこう言った。
「わたしはアリシア。王都から少し外れたフルミエルという街の治療院で、治療士をしています。薬草を摘みにここまで来て、倒れているあなたを見つけたの。怪我とかはしていないんですか?」
アリシアさんはそっと優しくぼくの肩に手を乗せた。
柔らかな手が肩に乗っただけで、心が爆発しそうになってしまった。1000年こじれ、ねじ上がった童貞力のせいだった。
アリシアさんが静かになにかをつぶやくと、ぼくの体の奥底から、光の粒のようなものがねじあげられていき、体全体がほんのりと輝いていった。輝きがおさまったころ、体中の疲労がほとんど消えてしまっていた。
「え! なんですかこれ!?」
「え、魔法ですよ? まさか、魔法を知りませんか?」
なんとこの世界では魔法が使えるんだ。これもすごい! もしかしてぼくも使えるんだろうか。
「魔法って、どうやって使ったらいいんですか?」
「ええと……。この世にあるすべての物には、その中に魔力が秘められています。それを内部からねじるように取り出したら、光の粒のようになるんです。その粒を集めて魔法に変えるんです。人から取り出したら、人を回復させる魔法になります。他にも炎とか、風とかからも取り出すことができますよ。わたしは、中級回復魔法しか使えないから、詳しくは説明できないんですけど……」
なるほど、理屈はわかったけど、全然できる気がしなかった。
もしかしてこれ、ぼくは魔法を使えないんじゃないかな……。
考え込むぼくに、アリシアさんが質問してきた。
「あなたは、魔法を使わない国から来たんですね? でも、わたしの記憶では、そんな国はこの世になかった気がするんですけど…。言葉もぜんぜん、今まで聞いた他国の方とは違うみたいです。あなたが来た国はなんていう名前ですか?」
「ええと、日本っていいます。そこから来たんです」
「聞いたこともない国ですね……。どうやって来たんですか?」
それは…… 『転校生・デスロック』で意識が飛んで……
異空間を漂って……
そう、そこで童貞力がこじれあがって…神の座のような童貞力になり……
おっぱいを見るだけでもう……
というか、アリシアさんにはおっぱいがある……
Hカップの大きなおっぱいが……
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
童貞力が暴走し、正気を保てなくなりそうになったので、ぼくは頭を抱えてうずくまった。
そんなぼくの姿を見て、アリシアさんはとても大きな勘違いをしてしまったみたいだった。
「いいんですよ、ごめんなさい。話したくないことは話さなくていいんです。思い出させてしまってごめんなさいね。聞いてしまったわたしが悪かったんです」
全然そんなんじゃなかったけど、あんまり話せる内容でもなかったので、とりあえずこの話はもう続けないことにした。
ぼくが深呼吸して気持ちを整えようとしていると、アリシアさんは優しく手を取ってくれた。
「わたしの街に行って休みましょう。美味しい食べ物もあるし、いい人達もいて、とてもいいところです。気持ちが落ち着くまで、いつまでだって、いてくれていいんですよ」
アリシアさんは優しくぼくに微笑んだ。すごくいい人だ。こういういい人は、どうやって生まれてくるんだろう。
どっちみち、どこにも行く場所もないので、最初に出会えた人がアリシアさんで本当によかった。
「お言葉に甘えさせてもらっても、いいですか……?」
その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、破滅が訪れた。
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