おっぱいで世界を救え!~童貞1000年こじらせた少年、おっぱいだけで最強魔法爆発~

ゆなみ

おっぱいで世界を救え!

第1話 異世界、ぜんぜん転生しない!ちっとも!!

「ぐ、ぐああああああああああああ………!!!」


ぼくは首を締められていた。

背後から、柔道の裸締めで。


「ククク……。どうだ……! これが俺様の、裸締めを改良した『転校生・デスロック』! この高校に転校してきた者は、誰もがこれを受ける運命よ…!」


柔道部の部長がぼくの後ろからそう言い放った。

しかしこの『転校生・デスロック』、名前以外は完全にただの裸締めであり、これで『改良した』などと言うのは詐欺なのではないだろうか? 名前をつけたか、つけなかったかだけの違いだった。


「ヒヒ―ッ! 部長の恐ろしさ、思い知ったでやんすか!?」


柔道部の部員が「やんす」を連発してぼくをからかった。

まさか、この21世紀に「やんす」を使いこなす人間がまだ残っていたとは。主演男優賞ものである。


「さあ! この『転校生・デスロック』で落ちていくか! 俺たちの奴隷になるか選べっ!!」


ここで降参するのは簡単だったが、なぜかぼくの中の最後の意地が、その言葉を言わせなかった。ぼくは『転校生・デスロック』の中でもがき続けた。


「ぬうう……この俺の『転校生・デスロック』に抗うとは……。ならば、こちらも全力で締め上げていくとしよう!! ぬんっ!!」


部長は更に力を上げたが、そもそも最初からかなり全力気味で技をかけていたらしく、そんなに締め上げる力は変わらなかった。なんとも見掛け倒しの男である。


「早く降参したほうがいいでやんすよ! ヒヒーーッ!」


呼吸が困難になる。

上を見上げたら、体育館の蛍光灯が見えた。

次の瞬間、ぼくの意識は蛍光灯の下からなくなってしまっていた。






ふと意識を取り戻すと、ぼくには体がなくなってしまっていた。


あたりは一面の暗闇でありながら、美しく光る星々のようなものが見える。

歯車のようなものがあちこちでうごめいていて、無数のドアや、たくさんの数字が並ぶ時計のようなものまであった。


ここは……どこ?


異空間? ぼくは消えてしまった???



次の瞬間、稲妻のように今の状況に気づかされた。


もしかして、ぼくはこのまま、異世界とかに転生してしまうのでは!?


なんか、やった!!


憧れの異世界転生。どきどきわくわくするような冒険がそこには待ち受けているに違いない!


部長の裸締めは苦しかったけど、こんなことがあるなら、受けてよかったなぁと思えてくる。


体のない意識だけの存在で、ぼくは星々がきらめく異空間をさまよい続けた。


いったい、どんな異世界に転生されるっていうんだ……。

もしかしてチート能力とかもあったりするのかな?

いやっ、ハーレムとかもあるのかも知れない……!

それはちょっとまいったな…。…

ぼくは高校3年生、18歳だけど、奥手で、女の子と手をつないだこともない。

それがいきなりハーレムなんかになってしまったら、どうしていいのか、わからなくなってしまうよ。

でも、そうなったらなったで、恥ずかしいけど気の合う女の子と恋愛もしてみたいなぁ……。


いろいろなことを考えながら、ぼくは異空間を漂っていた。

まるで感覚としては母親の体内にいるようで、気持ちよく、苦痛ではなかったけれど、一番の問題は、一向に何も起こる気配がなかったことだ。


普通、異世界とかすぐ召喚されるもんじゃない?


ちらりと時計のようなものを見ると、どうやらふらふらとあたりを漂っているうちに、1ヶ月ほどの時間が経過しているようだった。


1ヶ月……!

眠るように気持ちいい空間だから気づかなかったけど、もうそんなに経ってしまったのか……。


転生しないなら、帰りたいなぁ…と思っていたけれど、帰る方法もわからないので、相変わらずいろいろなことを考えながら、ぼくは異空間を漂い続けた。



そして2ヶ月、3ヶ月、半年、1年………



どれだけ時間が経っても、ぼくは一向にどこにも転生される気配がなかった。


こんなの、遅すぎない!?


普通はすぐにぽんっと転生するものだと思うんだけど…


そうこうしているうちに5年の歳月が流れ、異世界どうのこうのいうより、現実世界が心配になってきた。もうみんな就活している頃だと思うけど……こんなところ漂っていて大丈夫なのかな?

もし元の世界に戻れたとして、空白の5年間は、「暗いところをふらふらしていました」という怪しさ極まりない説明しかできなくなってしまう。

異世界に行くか、早く元の世界に戻るか、どっちかにしてほしいなぁ……。


そして10年、20年と時間が過ぎた時、実家の家族とかも心配になってきた。

しかし時計の時間が50年を過ぎたあたりで、もう元の世界には、ぼくの知っている人はだれも残っていないかも知れないと悲しくなってしまった。


その後、数十年は切なさが続いていたけれど、100年、200年と経つうちに、段々とそれも自分の中で過去のものになってしまっていた。


300年が経過した時、異世界や元に戻る期待や慕情が消えてしまい、それと同時に、『まだやっていなかったこと』『やり残していたこと』が猛烈に頭の中に強く思い浮かんできた。


まだ美味しいものたくさん食べてない……

行きたいところに全然行けてない……


そんな数多くの『やり残したこと』への後悔はふくらんでいったけど、心はまだ高校生のままであるぼくの中に爆発的に膨らんできた感情は、次のようなことだった。



まだ、ぜんぜん、おっぱいとかも触ったことない……!!!



そうだった。

今まで彼女とかもいなかったから、おっぱいに触れたりする機会も全然なかったのだ。


せめて亜空間におっぱいくらいあったら……!

そんな期待をしたけど、何百年経っても亜空間の姿は何も変わらず、眠るような起きているような、ただただ、星々の群れをさまよう生活が続いた。


童貞をこじらせるという言葉があるけど、500年、600年と経過した時、もはや童貞はこじらせたという領域を完全に超えてしまい、ねじれあがったと言っても差し支えないほど、神々しい童貞力が磨き上げられ、おっぱいに対するあこがれは膨らむばかりだった。


もはやぼくの存在はぼくでありながら、ほとんど意識のすべてをおっぱいに制されたものだと言っても差し支えないくらいだった。


早く転生するか、元の世界に戻るかしてほしい……!

そうすれば、おっぱいがあるというのに……!


800年ほど経過した時、もはや自分の意識とはまったく別に、磨き上げられた童貞力が、自分の中に神の座のように居座ってくるようになった。

なんてものすごく迷惑な童貞力だろう。


900年経った時、『おっぱい』という単語を思い浮かべただけで、意識だけになっているぼくの体が激しく燃え上がるような状態へと進化した。これは進化というのだろうか。


1000年近い時間が経過しようという頃、ぼくの目の前の空間に裂け目ができ、そこから現れた眩ゆく輝く光が、あたたかくぼくを包み込んでいった。


え!?

もしかして、ぼく、転生する!?


なんか嬉しいような、こんなに童貞力が上がった状態で転生させられたら、すごく迷惑なような…。

こんな童貞力が上がっていて転生して、何が起きても知らないよ!?

ぼくには、責任取れないよ!?!?



そんなぼくの意思とは無関係に、裂け目は一気にぼくの意識をその中に引きずり込み、次の瞬間、久しぶりに『意識』と『肉体』が合成される感覚を味わった後、稲妻のような強烈な衝撃を受けて、ぼくの意識はまた失われてしまった。

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