109日 管理者と雑談





 小鳥の囀りが聞こえる。


 天気は快晴、青い空が頭の上に広がる。




 俺は公園のベンチに座っていた。


 手にはジャ○プを、隣にはマ○ジンやサ○デー、おにぎりやジュースなど詰まったコンビニの袋が置かれていた。




 ペラ。


 ページをめくる。






「よう」




 頭はあげないまま、視線だけで声のした方を一瞥し、すぐ雑誌に戻した。




 ベンチに向かってくるスーツ姿の男性サラリーマン。


 年齢は二十代前半、短く切り揃えた髪、スラリとした体格にほどよい背丈。


 いかにも出世街道まっしぐらな勝利する未来が約束されたエリート組。




 男は俺の隣に腰下ろした。




――――今日はこの姿サラリーマンか。




「仕事はどうですか?」




 サラリーマンが親しげに話しかけてきた。




「まあまあだな」




 ペラ。


 雑誌の方に集中しながら答える。




 ――――男――――このサラリーマン――――管理者地球の神だ。


 ただ元々は「姿形がない存在」ので、基本的に肉体を必要としない。


 逆に言えばどんな姿にも化けれるのだ。




 サラリーマンか、主婦か、幼稚園児か、小学生か、大学生か、老人か、男女、種族関係なく。虫や微生物だってなれる。




 その時その時によっていろんな姿で俺に接触してくる。




 ――――こちら側地球に来て初めて固定の姿形がない神族に会った。ちょっとは感嘆したものだ。


 なにせあちらアツゥルマイガルドの神族はみんな固定の姿形を持つのだから。


 わかりやすく言えばこちら側のギリシャや北欧神話に近い奴らなのだ。




 そして元の存在は姿形がないという生態からさらに言えば、やつは地球のあらゆる場所にいろんな「自分」を同時行動させることが可能なのだ。




 まあ同じ神族というカテゴリーにいる以上能力は大差ないが。


 唯一決定的な違いは「固定した姿形の有無」だ。




「それはなによりですね」




「…もっとマシな姿はないのか」




 管理者は苦笑して、「これから会議がありますからね、社畜は辛いものです」




「お前それやっちゃ大丈夫なのか」




 神族――――管理者が過度に世界を介入するといろいろまずいはずだが。




「ええーまあ許容範囲内です。できるだけ干渉しないようにやっていくつもりなのですが」




 公園には小さな女の子を連れている母親や散歩する主婦の姿があった。


 平日なので人はあまりいない。が。




「――――平和だな。こちら地球は」




「――――ええ、そうなるように頑張ってきたからですよ」




 男性サラリーマンは静かに穏やかな笑顔を浮かべる。




「――――勇者ツヴァイシュヴァル、こちらの生活にはなれました?」




「――――見ればわかるだろう。結構前…来てから一ヶ月ぐらいでなれたぞ」




「さすがの適応力ですね」




 管理者はそう言いつつ、俺の読んでいるジャ○プに目を移した。




「……お前もジャ○プ読むのか」




「ええー他の中学生の僕や高校生の俺が結構読みますね。あ、サラリーマンはたまに読む程度です」




 ……一体地球上にこいつが何体存在しているのだろう。


 十か百か千か万かそれ以上か。




 千は下らないだろう。




「――――魔力。魔獣や魔物がない世界は結構なかなか慣れないな」




「私は逆に魔力のある世界が不思議と感じますね…」




 こいつの管轄は地球含む太陽系なので仕方がない。


 神に分類される存在はその管轄地によっていろんな差異が出るのだ。


 地球出身のこいつには魔力なんか扱えないし、使えるのは重力や電磁力など地球含む太陽系の法則。




 現に世界中地球に各地に散らばっているこいつは量子現象やそのさらに先にある物理学で説明できる。




 公園で遊んでいる小さな女の子の笑顔がたまにチラッと視界に入る。




 ――――。






「――――っと。どうしました?勇者ツヴァイシュヴァル?魔力を迸らせるのはしないでください。こちら側にない力なので周囲に気付かれなくかつ影響が出ないように私も全力で結界を作らなければなりません…能力をフル稼働したのは何億年振りなんでしょう」




「――――すまん、考え事してたんだ。気をつけるよ」




 どうやら一時的無意識下で感情が揺れたようだ。体が無意識に魔力を迸らせた。


 ――――魔力はこの世界にない力だ、そういう意味ではこいつが俺の発する魔力を押さえつけるためには本当の意味での全力を尽くさなければいけない。




「――――平和だな。――――誰もが手を取り合って笑って生きていける世界…か…」




 呟かずにはいられなかった。公園で遊んでいる幼い少女の笑顔が目に入る。




「……どうなんでしょう。この世界地球だって未だに完全に平和とは言えないでしょう。この星の人間はこれからどこに向かおうとするか――――私はただ見守るだけです」




「――――本当の意味での平和な世界、種族別け隔てなくような世界は存在し得ないのか。――――答えろ




 俺は敢えて、その呼び方で言った。




「――――難しい質問ですねツヴァイシュヴァル。何兆億年以上生きてる私にもその答えはわかりません。神って言っても”私達”はまだこの世の理の中にある。もしかしたら勇者が求めてる答えは――――世の理の外にあるかもしれませんね」




 サラリーマンはこれは困ったといった顔で苦笑。




 ――――。




 空を見上げる。




「――――っと会議の時間ですね。これにて失礼させていただきます。また機会があれば」




「――――――次はもっとマシな姿で来るんだな」




「あはは――――」彼は苦笑して「――――善処いたします。おっとと」急いで公園を出た






 俺は――――


 ペラ。


 またページを、一つ捲っていく。












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