第4話予想

 


 今日の夕方に夫は帰ってくる予定だったが、時化のため船が出ることができないと連絡があった。こちらの天気も次第に悪くなり、風雨のため、古い家のあちこちでは何かの音がひっきりなしにしている。今日は洗濯できないし、しない方が賢明だと、家の掃除だけ済ませ、タンスのほぼ肥やしとなっている着物を整理していた。


「この帯なら若い人の家にも丁度いいかしら」


と昨日の事を思い出し、サプライズで持っていこう、などと考えながらぽつりと独り言を漏らした。


「スペシャライズド ヴァーチャルリアリティサービス

専門的仮想現実提供か・・・」


 翻訳機で調べてみた。私は幼い頃から「感の良い子」と言われてきて、それが七十過ぎまで続いているかどうかわからない。しかし「三つ子の魂百まで」というのが科学的に証明されたと民生委員の講演会で聞いたことがあった。少し前なので細々したことは忘れたが、強烈に覚えていることは

「対人関係の基本的なことがこの年までに形成されるので、もしそれまでに十分なものが出来上がっていないと、本人は後々大変な苦労をすることになる」ということだった。


「凄いわよね、昔の人ってちゃんと見ていたのね」と私を含めてほぼ全員が格言なるものに改めて感心した。


 それにVRと言うものが何なのかも知っている。息子が電気関係の会社なので、帰省した時にこの新しい装置について色々話は聞いていた。

「ゲーム機以上の使い方ができるよ、無限の可能性があるからね。本当に日々開発が進んでいる、目覚ましい」


 VRが心理療法に使われていることは簡単に予想がついた。彼女のつらい経験をそれでどうにかして癒し、結果が子供のあの元気な姿に、幸せという一つの形になるのならそれはそれで良いことに思えた。

だが考えていくうちに少し怖くなった。これが全国的な傾向とすれば、それは一企業がやれるものではないはずだ。しかし国や自治体がそうしているという噂すらない。


 まるで私の不安を煽り立てるように、風雨は強くなり、電話の音に目が覚めるようにはっとした。夫からで、もうすぐしたら船が出るという知らせだった。こちらは暴風雨だと伝えると「まあ、最悪自分は電車で帰る」と言う。別の若い人の車で行っていて良かったと思った。あまりにも度重なる高齢者ドライバーによる事故で、年内には免許を返納する予定にしているのだ。


「まあ、夕方過ぎにはあがるでしょう」と明るい独り言を言うと、部屋中に高らかにチャイムの音がした。こんな日にとインターホンで映像を見ると、映っていたのは三十台前半ぐらいの若い男性、身なりもきちんとして、落ち着いた感じだった。


「株式会社、スペシャライズド・・・・」


彼が言う長いその社名の途中で、私は洗濯したてのタオルを持ち玄関に行った。



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