高校一年生編

この四人組は止まらない!

 東京都の某所。都内にしては土地代が安く、いわゆる下町と呼ばれるその場所に一つの家がある。

 少々年期がいっており、元は貸家だったものの、それでもそこそこ立派な一軒家だ。


 そして現在、そこでは一真、楓、三雲、そしてのぞみの4人の高校一年生たちが生活している。


「おいゲレンデ、目玉焼きにかけたいからそこのしょうゆとってくれ」


 ぶっきらぼうにそう言ったのは久留米一真。死んだ目と茶髪が特徴的だ。


 身長も体つきも平均的で、どことなく無気力な感じがする。


 職業は学生だ。



「あ、ゲレンデ! 私にも!」


 続いて元気よくそう言ったのが四継のぞみ。今度はしっかりとつくられたツインテールに桃色がかった髪、そして女子高生にしてはかなり小柄な体型と、男と見紛いそうな平たいお胸が特徴。

 本人いわく『身長をのばす!』ための今朝の牛乳は、もう少しで4杯目に到達しようとしている。きっと朝に貧乳煽りをされたのが効いているにちがいない。


 職業は学生、そして漫画家。



「あ、ゲレンデ。私にはティッシュをくれませんか?パンくずが落ちちゃいまして」


 丁寧な口調でそう言うのは二橋かえで。鮮やかな銀髪のロングヘアーと髪飾り、そしてまぁまぁぐらいの胸にそこそこの身長をあわせ持つ。


 見た目の割にかなり食べるようで、朝だというのに食パンを既に4つ平らげており、いま5つ目に手をかけた。


 職業は学生、それとイラストレーター。



 そして______



「なるほど。つまり俺が"ゲレンデ"ということか。一真、どういうことか説明してもらおうか」


 最後の一人になったことで自分がゲレンデ呼ばわりされていることに気づいたのが明石三雲。


 黒髪で真面目そうな顔立ちに眼鏡、さらに体格もよく、身長は高い。目付きが悪く、常に睨み付けているように見えるため、初見ではおっかないと感じられることも多そうだ。


 職業は学生、さらにミュージッククリエイターである。


 そんな三雲だが、唐突にゲレンデ呼ばわりされたのはどういうことか。


「いやだってお前、"寒"くて"滑る"とかゲレンデじゃねえか」


一真がしたり顔でそう解説する。


「人をバカにするときの一真はさすがよね! 一瞬だけ天才になるもの!」


「というわけでゲレンデさん。朝の詫びも兼ねてティッシュをください」


 楓とのぞみもそう続いたあと、三人ともゲラゲラ笑い出す。 


 当の三雲はというと、


「あの、やめてくれ……朝はほんとうにどうかしていた。俺が悪かったからそれ以上は……」


 羞恥でいまにも死にそうである。


「いやほんとにあのときのお前ヤバかったぞ。変なことにキレるし、貯めに貯めたギャグは滑るし」


「あれで一ミリでもウケると思ったわけ?」


 あのあとの彼の狼狽した態度から、あれは彼が長時間練ったギャグだったらしいということがバレた三雲。

 普段真面目でお固い雰囲気な彼の、壊滅的なギャグセンスが露となってしまった形だ。


「ほんとにあのときの空気はしんどかったですね~」


「今度からああいうことは思い付いても言わないでね!」


 三方向からけなされる哀れな三雲。


 しかも、言われてることが全て事実なのがさらに辛い。今日のあの出来事は彼のなかで確実に黒歴史となるだろう。


「あぁくそ……寝起きはできるだけ言動を控えるようにしよう」


 そう固く誓った三雲であった。



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 なんやかんやで朝飯(時間的にはほとんど昼食)を食べおえ、各々がリビングで作業に取り組み始める。


 以前に述べたとある事情とはこれだ。彼らはこの作業のための時間がほしかったのである。


 一真以外の三人は高校生である他に、プロのクリエイターとしても活動している。


 たとえばあそこでパソコンを開いて無言で作業をしている三雲は、中学のころからボーカロイド曲を作ってネットにアップしていたが、それらが大人気となり、スカウトを経て現在はその才能を活かしアニソン中心のミュージッククリエイターとして活動する。キャラクターの可愛さを前面に押し出した曲調がかなりの人気を泊しており、それゆえ彼自身のファンも多い。




「でへへへ……」


 デカい液タブを操作して、なにかヤバい表情と声をしながら作業をしているのが楓。こちらは彼女がSNSにあげている絵がとある企業の目に留まり、そこでの初仕事を切っ掛けに現在はプロの人気イラストレーターとして活動している。


 楓の描く絵は、一言で言えばえっちだ。

 直接的な性描写はないのにかなりのエロスを感じると、男性ファンからは大人気である。


 なお本人はエロ絵が大好きで、よくプライベートでR18おかまいなしのどエロい絵を描いてはツイッターにアップする。あの表情を鑑みるに今はそれだろう。




 作業そっちのけでみかんを食べているのはのぞみだ。


 とあるライトノベルのコミカライズ企画の漫画家として志願し、そこでの仕事を得て以降、売れっ子漫画家として活躍している。具体的には、現在進行形でWeb漫画を連載する他、多数の小説のコミカライズを手掛ける。


 彼女の連載するWeb漫画は知名度こそあまりないが、そのサイトの利用者からは面白いと話題になっており、熱烈なファンも存在するらしい。


 また、かなりの量の仕事を並行しているのだが、彼女はかなりの速筆で常に締め切りに余裕をもっているため、他の仕事もまだまだ行けると言わんばかりだ。





 以上の三人は、15.6歳という若さでありながら既にプロとして活躍しており、相応の給料も貰っている、業界内の『期待の星』である。



 そして、



「一真~。新人賞の原稿できたー?」


「あー、まだ。まぁ待っててくれや」


 みかんを頬張りながら話しかけてくるのぞみに対し、パソコンの画面から目を離すこともなくそう答えたのが久留米一真だ。


 今はただの学生。だが新人賞からのプロ作家デビューを目指している。


「うん待ってる。完成したら読ませてね!」


「おう、楽しみにしててな」


 彼は一度、新人賞に応募するもあえなくニ次選考ではじかれたことがある。

 現在執筆しているのはリベンジの2作目なのだ。


 その題名は『奈落の騎士』。ハイファンタジーなバトルもので、主人公は一度仲間たちによってドン底まで落とされるものの、『魔騎士』として力を得て地上に舞い戻り、奈落で出会ったヒロインと共に復讐を果たしていくというものである。



 当然だが、彼は自分の作品に手応えを感じている。

 次こそは通ると。これが最高の作品だと信じて疑わない。


 一真の狙う次の新人賞の締め切りは1ヵ月後。

 彼の勝負の時期は、すぐそこまで迫っているのだ。

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