第9話

「キャンセルって、なに言っちゃってんのユリン。キャンセルしたら俺たち男にもどれないんですけど?」

「戻らなくたっていいじゃない。女だって楽しいでしょ」

「いやいやいや。もともと男だからね。男がいいよ、俺は」

「それに、サッカーはもう手遅れでしょ」

「え? なんのこと?」

 たしかに。

「サッカーのことはあきらめよう。俺はまだ間に合う。男にもどりたいって言ってんの!」

「もう、メンドクサイ。あのいかがわしい魔法使いがいなくなれば男にもどれない。諦めるしかなくなるでしょ」

 天蓋と寝台とテーブルが燃え上がった。ユリンの火焔魔法。

「わあ、なにすんの。ヒドすぎるでしょ、いきなり」

 ブレイクは駆け寄ろうとするけれど、ペイジは動じていない。自分自身が炎に包まれても、寝台に腰かけたままだ。

 炎は消え、凍りついた。冷たい風がやってくる。ペイジの魔法だ。

 ペイジが立ち上がる。身に着けていた白い服は塵となって消え、裸身があらわ。アンドロギュヌスの、アンドロギュヌスの?

「えっと、両性具有って意味でしたよね。アンドロギュヌスって」

「それがどうかした?」

 ブレイクの質問にペイジが眉をひそめる。

「上も下もついてませんけど? ぷぷぷ」

 ユリン。そこまで言うつもりはなかったのだけれど。

 ペイジの胸はぺたんこ。貧乳。まな板。ぺたた。いろいろな呼び方があるけれど、まあそういうやつだ。スレンダーと言うのが穏便かもしれない。

 下は、ついていない。ただの貧乳女と言って構わないだろう。どっちも具有していない。

 中性的で魅惑的な顔貌に、幼女と言ってよさそうな体躯が連結している。アンバランス。かえって悪魔的?

「ちょっとイラッときた」

 ペイジを怒らせてしまったらしい。身構える。

 横でユリンの服が飛び去った。は?

 脱衣魔法。

 そんなのあるのか。魔法の世界は奥が深い。

「ぶふっ。なんで下着つけてないの。あなた痴女なの?」

 ペイジは大人げなかった。ユリンとかわらない。

「水着を着てたから。下着もってくるの忘れたからっ」

 そうだったのか。水着あるある。ペイジもユリンも全裸。なんじゃこりゃ。

 あっ。

 ブレイクはもってきた宿泊道具の荷物を開ける。ユリンのおさがりの服。着ないとは思ったけれど、詰めておいたものだ。

「ほら、ユリン。これ着とけ」

 オフショルのニットワンピース。たしか女体化した最初の日に着せられた、ユリンのおさがりだ。もう一着、白地に花柄のロングワンピース。こっちもユリンに押しつけられた。ペイジに投げてやる。

「ペイジさん、よかったら着てください」

 ペイジはスポッと頭からかぶってワンピースを身に着けた。中性的だったのが、なんだか乙女チックな印象に早変わり。

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