第8話

 タイの空は晴れていて、太陽は人間を焼き尽くそうとしていた。人間が居住可能な中で最も暑い地域だろう。砂漠にはとてもではないけど、人は住めない。

 目的の魔法使いが住んでいるという家は石造りで、廊下は石の柱、壁はなく、天井は高い。うす暗く、空気が涼しく感じられる。やはり、土地によって最適な建築というのはあるものだ。

 廊下の突き当り、高い天井までの大きな扉にゆきあたった。もしや、魔法使いは巨人なのか。こんな扉が必要なくらい?

 ユリンが魔法で扉を開け放つ。腕力で開けるには難儀しそうだった。

 三人並んだ足もとに冷気が流れ出す。

 内部も薄暗い。誰もいないのか?

 室内に入ると扉が閉まった。自動扉。

「せっかくの冷気が逃げてしまう」

 男にしては高く、女にしては堅く低い声。石造りの部屋に反響してどこから声がするのかわからない。室内は広い。

 柱の影に注意を向けながら、なおも奥へ進む。

 先の方になにかみえてきた。祭壇?

 近くまでくるとわかった。一段高くなった石の床に天蓋付きの寝台が置かれていた。横にテーブルをつけていて、うえに食べ物と飲み物と、開いた本が載っている。

 ブレイクのレトロ趣味は本に反応した。紙の本を読むなんて珍しい。

「あの、約束していた」

「おお、男。いい男だったね。そっちは、繊細な感じでまたいい男。お前は、ちっ」

 ゆったりした白い服に包まれた、中性的な、中性的すぎて男か女かわからない顔立ちの人物が寝台に腰かけている。

「なに、ちっって」

 ユリンの眉間に邪悪な魔力が渦巻いている。比喩というやつ。

「私は、アンドロギュヌスの魔法使いペイジ」

「おい、ユリン。アンドロギュヌスってあれだろ?」

「あれよ、あれ。両性具有ってやつ。なにか自慢なの?」

 ブレイクとユリンでごにょごにょ。

「ともかく、俺たちの男時代の姿が見えてるっぽいな」

「どうだか」

「そこ! ごにょごにょ言わない」

「はい、すみません」

 ブレイクは先生に叱られた生徒になってしまった。そういえば、りっちゃん先生元気にしてるかな。サッカーは良い子ちゃんで、いつも頭なでられててうらやましかった。

「それで、女体化の呪いを解いてもらいたいんですけど」

 金髪サッカー。なんだか外見に合わせて堂々とした振舞いになってきているような。

「いいえ、依頼はキャンセルします」

 ええー!

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