第6話
「私、どうしたの?」
「サッカー。エコノミークラス症候群を起してたんだ」
人工呼吸のことは黙っておこう。
「ああ、ずっとすわりっぱなしの徹夜で調べものしていたから血栓ができちゃってたのね」
「サッカー?」
「なあに?」
「話し方が女っぽいんだけど?」
「うそっ、やだっ」
いや、もう女だろ。裸にされていることに疑問をもっていないようだ。ラッキー。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、ブレイク。つぎは?」
ユリンはせっかちだなあ。つぎって、墜落しちゃった飛行機はどうしようもないんだから、魔物退治に決まっている。
「巨大なイカの魔物に襲われてるんだ」
サッカーは窓を見て、嫌悪感をあらわにした。
「ふたりで引きつけて時間を稼いでください。私が倒します」
「お、おう」
なんか調子狂うな、女サッカー。
飛行機のドアを開け、ユリンはステッキに乗り、ブレイクは剣に乗って外に飛び出す。
外は嵐がつづいていた。空は雲に覆われ、あたりは暗く、海は黒々している。
雨と風。飛びにくい。服が濡れる。水着が正解だったか。
距離をとって眺めてみると、やっぱりイカだった。デカい。飛行機とスケール感がかわらない。
頭を海面から突きだして、触手を飛行機に絡めている。海に引きずり込もうというのか。今のところ飛行機は二つに折れるなんてこともなく、イカの攻撃に耐えて海に浮かんでいる。
「飛行機から引き離そう。注意を引きつけてくれ」
ユリンはうなづいた。
氷魔法。ユリンの放った氷の矢がイカのエンペラに突き刺さり。周囲を凍らせる。
ブレイクは近づき、氷魔法でイカの触手を凍らせた。触手の攻撃をかわしながら凍った触手に着地、剣を抜く。
『なんでえ、イカかよ。斬りごたえなさそうだな』
触手を切り落とした。飛行機に絡んでいた触手を全部切り落とし、もう一度剣に乗って飛び上がる。
浮遊魔法は扱いが楽でいいんだけど、ステッキのように細長いものに乗らないと使えない不便さがある。
切り離された触手は力を失い、飛行機から離れた。機体は海面上を揺れ遠ざかる。
「きゃあ」
ユリンだ。女の子らしい悲鳴をあげるんだな。
触手に捕まったユリン。水着がずれてしまって、ポロリしている。たいへん罪悪感を刺激する姿態。水着姿ですでに見てはいけない感じだったのに。
「早く助けなさいよ!」
風魔法で圧縮空気を作り、エアカッターとして飛ばす。ユリンを捕えている触手がスパッと斬れる。下にまわりこんでユリンの体をキャッチした。ブレイクは女体化していて、ユリンはあまり変わらない体格。重い。
イカと、目が合った?
視界が真っ黒に。
体中べっとりぬっとり。またかよ。
イカスミを吹きかけられたのだ。
ユリンに絡みついている触手を海に落としてから高度を上げ、イカから離れる。
「ユリン、おっぱい揉むのやめて」
「私より大きいんじゃない? 生意気ね」
襟から中に手をいれられていた。にゅるにゅるする感触。
雨だけではイカスミが流れない。
水魔法。
顔と髪、体を手でこすって、イカスミを洗い流した。
「ユリン、水着水着。ズレてるから」
「女同士なんだから大丈夫でしょ」
全部その理屈で通すのやめて。
ユリンはステッキを呼び寄せ、自分で飛んで距離をとった。水着を直す。
「ブレイク、サッカーがイカから離れろって」
「オッケー」
ユリンのグラスに攻撃準備ができたと連絡がきたのだ。二手に分かれてイカから距離をとる。
空から、雲を抜けて、一条の光が海を突き刺し。
光は幅を広げ、視界を覆った。
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