第5話

「ちょっとまって、脳、ノー、コー、ソク? なんだっけ、それ」

「なんの話?」

「グラスに表示されてる」

 ユリンはグラスと呼ばれる片目タイプのメガネ型デバイスをつけている。サッカーはもっとゴツイ機種を使っている。ブレイクはハイテク機器が好きになれず、黒電話で済ませている。

 ユリンからグラスを受け取ってつけてみる。視界に脳梗塞と表示してあって、サッカーの体の輪郭線を点滅させている。そんなこともわかるんだっけ。

「そうか! エコノミークラス症候群だ」

「なんなのそれ」

「そんなことより、えっと、あれはどこだ」

 サッカーの体から外した道具から、薬剤注射のガンを探す。

「あった。えっと、血栓を溶かすんだから、これか。血栓溶解薬」

 注射できる薬剤の中から選択した。ガンの先端を二の腕に押しつけ、トリガーを引く。

「よし」

「よしじゃないでしょ。ぜんぜん変わらないじゃない」

「わかってるって。えっと、水魔法で、いや、金属魔法でヘモグロビンを。うーん、魔法使い勝手わるいな。誰かこんなとき用のライブラリを公開してくれてないのか」

『ぶっちゅーとやりゃあいいじゃねえか』

 ブレイクの背中で剣が口を出す。口やかましくて、黙っていて欲しいことが多いけれど、たまには役に立つこともあるものだ。

「なるほど」

 レトロなやり方は性に合っている。ブレイクはサッカーにぶっちゅーとやった。胸を押す。ユリンは瞳が輝いている。

「ちょっと、ユリン。見つめられてるとやりづらいんだけど」

「だって、見守ることしかできないもん。てぇてぇ」

「ん?なに?」

「こっちの話」

 人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。

「ねえ、電撃魔法は?」

「それだ。ユリン頼む」

「嫌だ。黒こげにしたらまずいでしょ」

「そうだな」

 ゴッ。

 ほっぺに痛みが。ユリンの右フックがブレイクの頬に決まった。

「失礼なことはいいから、さっさとやんなさいよ」

 アホなことをやっている場合ではなかった。サッカーの両方の胸に手を当てて。やわらかくてボリューミィ。すこしヒンヤリ。ユリンの顔が近いのが気になる。

「ユリン離れてて、電撃が行くよ」

「ちぇっ」

 電撃魔法。サッカーの体がのけぞる。

 心臓は。胸に耳をつけても鼓動は聞こえない。まだ弱いのか。

「もう一度」

 電撃魔法、強め。サッカーの体がのけぞる。

 胸に耳をつける。鼓動は、聞こえない? いや、動き出した!

「ユリン、回復魔法。サッカーに」

「やったの?」

 回復魔法。

 サッカーが体をうつ伏せにして咳きこむ。おお、生きてる。

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