第4話
破滅は間もなくやってきた。大音量、衝撃。飛行機が海面に叩きつけられたのだ。
これで死ぬのか。三日後に男にもどれる希望が断たれると心配していたけれど、その前に女のまま死んでしまうのか。
ブレイクは自分が飛行機もろとも海底に沈んでゆく映像を見つめる。海は上空から眺めたら青くてきれいだった。深い海の底に沈んでしまったら、光も届かず真っ暗なのだろう。
痛い。ほっぺが。ぐいぐいと。体勢としては、腕を頭の上にあげて横向きに寝転んでいるとわかる。
「痛ったいよ!」
ユリンのステッキの先をつかんでいた。ブレイクのほっぺをぐいぐい突いていたのはユリンだった。
生きていたのか。またどうせ自分だけ防御壁を展開して助かったに違いない。いや、そうでもないか。ブレイク自身、体にあまりダメージがない。起き上がる。
現在ぐらぐらするのは、飛行機全体が揺れているからだ。沈んでいるのとは違う感覚。
「生き返ったみたいね。一気にいろんなことが襲ってきてどうしたらいいかわからないんだけど。ブレイク決めなさい」
「決めなさいって言われても、状況が飲み込めん」
「ひとつ。飛行機は墜落した。ひとつ。サッカーは死んでる。ひとつ。魔物に襲われている」
「マジか。って、本当にどこからツッコんでいいかわからないな」
「ツッコむんじゃなくて、対応を決めろって言ってんだけど」
またほっぺが。
「簡単な魔物からでいいんじゃないか」
「あれだけど」
ほっぺから離れたステッキの先が飛行機の窓を指す。その先に、巨大な、目? 窓いっぱいに黒く広がってるんですけど?
「気持ち悪いから、ブレイクが殺って」
こちらをのぞく大きな目から遠い窓に寄って外を確認する。飛行機は巨大なイカに絡みつかれていた。これが墜落原因でもあるのだろう。まともに海に墜落したのだったら、さすがに乗員は生きていない。
イカか。またバーベキューか? あんなデカいイカがうまいか知らないけれど。
「やっぱり後回しにしよう、緊急性はなさそうだ。この飛行機けっこう頑丈みたいだな」
墜落したり魔物に襲われたりしている割には元の形を保っている。緊急性があるのは、サッカーだ。サッカーは座席の足元に死んで寝転んでいる。
「サッカーは殺されたのか? ユリンが殺ったのか?」
「んなわけないでしょ」
「でも、出かけるとき殺そうとしてただろ」
「殺そうとまでは思ってない。ぶっ殺してやるって言っただけ」
どうも怪しい。
「それにどうやって殺したって言うの。病気なんじゃない?」
「女体化の呪いがあるくらいで、病気にかかったなんて聞いてないぞ。ユリンが頭を殴ったせいじゃないか?」
「頭殴ってないし」
ステッキを胸のまえで抱える。殴ったな。
サッカーの体を通路に引っ張り出してから、頭を探る。殴られたせいでへこんでいるようなところはない。血が出ていることもない。じゃあ、ちがうのか。
美少女ロボットがシャツのボタンとボタンの間から這い出してきた。ずっと押しつぶされていたらしい。
「おい、サッカーはどうした? なぜ死んだ?」
『わかるわけないでしょ! ずっとおっぱいに押しつぶされて動けなかったんだから』
そりゃそうだけど。役立たずだな。
ブレイクはサッカーが身に着けている武器やらなんやらをベルトごとはずしてゆく。服も脱がせる。飛行機が揺れるからやりづらい。イカの奴、すこしじっとしていてくれないかな。
「私も」
ユリンの手が加わる。声が楽しそうだった。
おっぱいデカッ。間近にすると遠目とはちがう迫力がある。
そんな場合ではなかった。サッカーの体に傷は、なさそう。
「血が出ているところもないし、アザができているところもない。サッカーはなんで死んだんだ?」
「毒じゃない?」
「毒ね」
あからさまにミステリー展開。
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