第2話

 ブレイクとサッカーは手早く荷物をまとめ、運び出す。

 ふたりとも魔物退治の装備をしている。知らないところへゆくのだ、なにがあるかわからない。

 サッカーは体のあちこちにベルトで武器やら道具やらを固定している。男のときのままの服だから、胸とお尻が窮屈そう。

 ブレイクは体が縮んで、むしろ服がゆるい。胸元があきすぎるのが気になる。剣は背負っている。ユリンがくれたおさがりは、辱めを受けている気分になるから、ユリンの実家からもどって一度も着ていない。

 外に出る。庭が二つに割れて地下からせりあがった発着場に飛行機が駐機されている。小型ジェット機に荷物を詰め込む。


 サッカーが、やったのだ。

 とうとう、呪いを解く方法を見つけた。女体化の呪いを解くことができる魔法使いがいるという。それで、魔法使いを探し当て、アポを取りつけることができた。魔法使いはタイにいる。

 急がなければならない。内面まで女になって、呪いが固定してしまうまえに解いてもらわなければならない。

 あと三日。


 あまり乗り気でないユリンも有無を言わさず連れてゆく。説得している場合ではない。

「ユリン、急いで」

 ブレイクはダイニングにもどり、ユリンのステッキをつかむ。サッカーはユリンを小脇に抱える。

 ユリンは男二人に女ひとりというパーティーに不満があったらしい。まったくそんな風には見えなかったけれど、どこかに遠慮があった。本人はそう言い張った。それで女が増えてほしいと思っていたところに、男二人が女になってめでたいと主張した。

 ユリンの事情なんか知ったことか、こっちは男にもどりたいのだ。飛行機へ急げ。外に飛び出す。

 どがっしゃ、ぎゃっ。

 なにか不吉で禍禍しい音声がブレイクの後ろでした。振り返ると、ユリンが地面に落ちていた。

「ユリン、大丈夫か?」

 地面に転がったまま、サッカーを睨みつける。

「わざとでしょ」

「ちがいます」

「だいたい、片手で小脇に抱えてなんて、女の力でできるわけないじゃない。いくら私が体重軽いって言ったって」

 体重軽かったっけ? ダイエットしなくちゃなんて言ってなかった? 空耳かな。

 ブレイクがユリンの手を引いて立ち上がらせる。ステッキを奪われた。まずい。

 雄叫びとともにユリンはステッキを振り回しはじめる。金属製で宝石がはめこんであるステッキ。重量は軽いけれど一撃を喰らうとひっじょうに効く。股間がムズムズする。

 ブレイクは頭を抱えてしゃがんだ。すぐ頭の上をステッキが通りすぎる。サッカーの悲鳴。ゴン、バキッという、人を不安に陥れる金属的な物音。まずい、飛行機が飛び立てなくなる。

 ブレイクはタイミングを計り、ユリンの背中に飛びつく。羽交い絞めにした。

「サッカー、ステッキステッキ。手から奪って」

 サッカーがステッキを奪うと、ユリンは脱力した。どうにかご乱心がおさまった。

 ブレイクが体をはたいてやる。地面に落ちて服に土がついてしまった。落ちるときに手をついたのだろう、手の平もよごれている。

「ユリン、水道で手洗ってきなよ」

 手の平を見つめてからうなづき、家の外の水道へ歩いて行った。

 今のうち。サッカーをステッキごと飛行機に乗せ、出発準備をさせる。乗り物はサッカーが担当だ。

 入口ドアまで戻ると、翼の影にユリンがいた。まだぐずぐずしている。

「ユリン、なにしてるの? 早く乗って」

「うん、今行く」

 なにかを投げ捨てるような動作をしてから、こちらにやってきた。よく見えなかったけれど。

「どうしたの? 大丈夫?」

「ううん、へーきへーき」

 手をはたきながら乗り込んできた。

 全員がシートベルトを締める。まっすぐ上に離陸。飛行機は上昇しながら弧を描いて、目的地に向かって進みだした。

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