わたしたち、異世界パーティー

九乃カナ

第1話

「うわぁ! たいへんだぁ」

 ブレイクはコーヒーを淹れてマグカップに一口目をつけようとしていた。突然の大声に驚いて唇に熱い液体が跳ね、反射で手が振れてしまい、たぷん、ぽちゃ、手の甲にまでコーヒーが垂れた。

「あちっ、うわっちぃ!」

 悲鳴が二段階になったのはそういうことだった。

 熱さに耐え、凶器と化したマグカップをダイニングテーブルに置く。手の甲のコーヒーを舐めとり、仕上げに部屋着のズボンにこすりつけてから、ふーふーと吹いた。

 サッカーは自分の部屋のドアを開け放したところで立ち固まっている。

「コーヒーこぼしただろ、驚かすなよ」

「かわいい、ズルい」

 顔を合せるたびにサッカーに呪いの言葉をかけられる。ブレイクは倒した魔物の呪いにより清楚系の美少女の姿になってしまった。もとは剣士らしい剣士、立派な男だったのだけれど。

 サッカーだって同じ呪いで女の姿になっていて、金髪ナイスバディの美女なのだ。けれど本人、好みではないらしい。自分自身の姿が好みである必要はないようなものなのに、サッカーは納得していない。ブレイクがうらやましいらしいのだ。

「で、なにがあったんだ?」

 サッカーは気を失ったように立ち尽くしている。

『呪いは二週間以内に解かないと固定され、内面まで女になっちゃうの』

 サッカーの胸の谷間から小型のロボットが這い出てきて答えた。魔法使いで言う使い魔のようなもの。サッカーの趣味を反映して美少女風。こんな容姿になりたかったらしい。って、なんだって?!

「二週間って、呪いがかかってからだろ。ユリンの実家でノンビリ温泉に浸かってる場合じゃなかったじゃないか」

「ふたりだって温泉入りたいって言ったし、満喫してたじゃない」

 ユリンは向かいの席でカードを並べてなにかしている。

 淡いブルーの髪、髪より濃い瞳の色に、抗議の意思が見て取れた。カードの並んだ横に使い魔のハムスターが尻をつけてのん気にすわっている。なにも考えていない顔だ。

「いや、まあそうだけど」

 でも、一番楽しんだのはユリンだろう。

「サッカー、ほかには? グッド・ニュースはないのか?」

 サッカーは調べものが得意。ブレイクたちにかけられた呪いについて調べていた。自分の姿に納得がいっていないから、元にもどりたいという気持ちが異常に強いということもある。必死に調べまくり、あまりうれしくない情報を引き当ててしまった。

 サッカーを見つめる。金髪美女。慣れない。まだショックで固まっている。返事は期待できない。

 ブレイクは立ってゆき、肩を抱きながらサッカーの部屋へ一緒にはいってゆく。

「呪いを解く方法を探すんだ。大至急。最優先」

 女三人で温泉、楽しかったねぇというユリンの声を背中に聞いた。

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