第8話
「白夜くんの任務は、とある一族の監視でした。ただし、監視をするにも対象者にバレてはまずい。そこで暁は、術をかけたんです」
「術?」
「緋鞠さんは、気配に敏感なほうですか?」
「え、と……それなり……に……」
正直に言えば得意なほうではない。明確な殺意なら別だが――。
「例えば壁に隠し部屋があったとします。その存在を誰も知らないとして、そこに誰かが隠れて気配を殺していたら?」
「……それは、気づかないかもしれません」
「我々が扱う術はそれです。要は幽体離脱の応用なんです」
「幽体離脱……」
魂を身体から引き離し、魂のみの状態を指すのが一般的だろう。
「魂のみになった意識を別の層に移す。そして、相手側に見えないように気配を最大限に薄め、監視をしていました」
「でも、魂を身体から長時間離せば死んでしまうのではないですか?」
「それを可能にする特別な場所が存在するんです。そこに身体は置いて、魂との繋がりを保っていたんです」
緋鞠は納得がいった。
その場所が、極秘事項なのだろう。
「任務の期間は約一年。身体の生命兆候をこちらで確認しており、今までその術が失敗したことはありませんでした。しかし、異変が起きてしまった。白夜くん他、任務についていた全員の生命の繋がりが途切れたんです」
緋鞠は弾かれたように腰を上げる。
「なっ!?」
「その特別な場所に行けるのは、一年に一度。資格がある者しか行けません。しかも、我々はその資格さえ失った。……だから、全員死んだことにしたんです」
松曜は苦しげに顔を歪めると、緋鞠に向かって頭を下げた。
「――あなたにも、他のご家族にもひどいことをした。本当に、申し訳なかった」
あの葬儀の日、多くの家族が参列していた。緋鞠は八雲に連れられて、空っぽの棺を見た。
どうして、誰もいないの。
どうして、死んだなんていうの。
ねぇ、どうして──?
言い様のない苦しみ。心にぽっかりと穴が開いたような悲しみ。
……でも、それは。嘘を吐く側も一緒だったのかもしれない。
ぱちんっと泡が弾けたような音が響いた。オープンテラスを覆っていた結界は解け、冷たい風が頬を撫でた。
「顔をあげてください」
顔を上げた松曜に、緋鞠は笑って見せた。
上手く笑えている自信はないけれど、あの日にもう、一生分泣いたはずだ。
だから、悲しむのはおしまい。
「可能性があるなら、そちらに賭けたい。謝罪よりもこの先の話を、お願い……私はどうしたらいいですか?」
涙を我慢する緋鞠を見て、松曜はもう一度だけ頭を下げる。そして、胸ポケットから金色のバッジを取り出した。
「あの学園で、
渡されたバッチには、五芒星と暁のマークが彫られていた。それだけではなく、僅かに霊力を感じた。術が施してあるのだろうか。
「得業生になれば、あらゆる特権が得られる。隊員としての地位が約束され、特別な任務につくことができる。私がその場所にいくことができるよう取り計らいます」
「でも、資格がないと入れないんじゃ……」
「それなら心配ありません」
松曜の自信に、緋鞠は目を瞬かせた。なぜ、言いきれるのだろう?
強く風が吹いて、白い花弁が視界に舞った。
「おそらく、あなたは──」
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