第4話

 教壇に戻った大雅が教室を見渡した。


「何か質問はあるか?」

「はい、模擬戦ですが、このクラスは二十二人なので、七組しか組めませんが?」

「弐組と合同で行うから問題ない」


 教室がざわりとした。


 弐組と合同なら、琴音とチームを組むことだって可能かもしれない。

 しかし、周りの生徒は渋い顔をしている。


「弐組と組まなきゃならないの?」

「分家の人間となんてやってらんねぇよ」


 そんな声が聞こえてくる。


 緋鞠は首をかしげる。

 何故そこまで嫌がるのだろうか。クラスは違えども、鬼狩りの仲間なのに――。


 そもそも、クラスの雰囲気が悪い。何が原因なのかはわからないが、生徒同士が睨み合っている。


(う~ん……)


 緋鞠は唸りながら、腕を組んだ。


(……)


 何だか眠くなってきた。

 昨夜、京奈に教えてもらった蔵書室でおもしろそうな術書を見つけてしまい、ついつい深夜まで読みふけってしまったのだ。


(……ううう、眠いよぉ)


 指先を揉んだり、耳を引っ張ったりしながら、眠気を覚まそうとするも、まったく効果がない。

 頭がぐらっと傾いだ。


「神野!」

「いやっ、寝てません寝てませんよ、私は。ちょっと、意識が飛んだくらいですよ!!」

「神野、いいよな?」

「いいんじゃない、ですか?」


 反射的に返事をしてしまう。

 大雅はにいっと口の端を吊り上げた。


「それじゃあ、一学期の学級委員は神野緋鞠に決定。はい、拍手」


 しかし、拍手をする者は一人もいなかった。


「ちょっと、どうして私なんですか!?」

「いいって言ったよな」

「眠くて話をこれっぽっちも聞いてませんでした! ごめんなさい!」

「それじゃあ、罰で学級委員な」

「どんな罰よ!」

「――先生」


 ふたり同時に振り返ると、瑠衣が立っていた。

 また、剱崎も同じ様に立ち上がっている。


「何故、彼女に?」

「そうです。神野さんはこの世界についての知識が少ないんですから、無理を強いることになりますよ」


 ふたりの発言に、緋鞠もうんうん、とうなずく。

 大雅は面倒そうに頭に手をやると、緋鞠に向かって目配せをする。


「?」


 緋鞠は黒板に顔を向けた。

 学級委員の名前が書かれている。緋鞠が睡魔と戦っている間に、学級委員の候補者を募り、多数決まで行ったらしい。

 

『蓮条・十票、剱崎・十票』


 欠席者一名と緋鞠を除いた票が、きっちり二分されている。


「蓮条さまが委員になられたほうが良いと思います!」


 いきなり女生徒が発言した。


「剱崎さまのほうがふさわしいに決まってんだろ!」


 男子生徒が猛然と立ち上がる。


 それをきっかけに、他の生徒たちが言い争いを始める。どちらかを選べば選ばれなかった方は暴動を起こすレベルの――。


 瑠衣も来栖も止めようともせず、見守っている。


「よし! じゃあ、神野に副委員を任せるから、どちらかが委員長な!」

「えっ、ちょっと待って!?」


 大雅が緋鞠に丸投げした。


(選べるわけがないでしょおおおお!!)


 全員が固唾を飲んで緋鞠を見つめている。

 緋鞠は屈みこみ、教卓の陰に隠れた。


 ――どうせ選ぶなら誰もが納得するような、頼りになる人物がいい。言い争いを黙って見ているような無責任な人間に、クラスを任せたくない。


「遅くなった」


 ガラッと教室の扉が開いた。


「おい、遅刻だぞ」

「文句なら、風吹秘書に言えよ。朝っぱらから長々と説教食らわせやがって……」


 聞き覚えのある声に見慣れた金糸。

 翼の姿を見て緋鞠は心の底からほっとした。と、同時にいい案が浮かぶ。


「決めました!!」


 勢いよく立ち上がった緋鞠は、翼の腕をつかむと挙手させた。


「三國くんを委員長にします!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る