補足―信託者の怒り―前編

三十五



―4月29日(木)午前11時―


―都内某所 プルス・アウルトラ本部 指揮所―



ドミニク「結局! 我々は後手に回ったと?!」


その怒声が本部指揮所に響き渡る。


副長「…はい 我々が介入出来たのは日本政府が全ての作業を終えた昨日でした…」


ガタイが良く、以前実働部隊の指揮を執っていた副長がそう伝える。


ドミニク「~~!! 全くッッ!! 何をやっているんです?! 折角のベルゼバブ討伐のチャンスをッ! 逃すだなんて!」


言いながら円卓の机をドンドン叩く。


副長「…お言葉ですが、今回の件、二名が派遣されておりました その二人の報告があったからこそ、我々が今回の件に着手出来たのも事実です …矢張り、今後は日本政府との連携も図るべきかと…」


そこまで述べると、ドミニクは鬼気迫る表情で副長に視線を向ける。


ドミニク「何を言っているッ! "ランの奇跡"の再来だぞッ!? 五百年振りの! これで! この討伐を成し遂げる事で!我等教会の権威を取り戻す為にもッ! 必要なチャンスだったのだッ! それをッ! 貴様はッ!」


言いながら副長の頬に何度もビンタを食らわす。


副長「…申し訳ありません…ですが、人命が第一では?」


一頻り叩き息が上がると共に、ユックリと副長が口を開く。


ドミニク「それよりも…協会の権威の回復の方が重要です…! でなければ…誰も何も…手は貸さないし、救えないッ…!」


息を絶え絶えに発するその言葉には、悔しさと哀しみが混ざっていた。


副長「…失礼しました こちらが今回の報告書です」


淡々とそう言って、数枚の書類を渡した。


ドミニク「…見ましょう」


荒い息を整え、冷静になりつつ、そのペラの用紙を受け取った。


数枚の用紙を捲(めく)った後、ドミニクの額に青筋が浮かぶ。


ドミニク「…これだけですか?」


ペラの用紙を副長に向けて振るいながら悪態を吐く。


中身などは見ていない。


少なさに苛立っているのだ。


副長「日本政府の後では…この量になってしまいます 今回の主導は日本政府ですので…」


ドミニク「…おかしくありませんかァ…? 我々は国家間の縛りに囚われない法規的組織の筈ですが…?」


更に額に青筋が増える。


副長「…最近は怪異が増加傾向にありますが、60%以上の人員を黒い男追跡に割いている為、他の討伐や依頼に対処する人員が少なくなっており、それこそ日本政府の宮内庁陰陽寮、バチカンとの情報共有もあり、我々以外でも怪異に対処してくれていますので、現状に悲観する事は無いかと…」


そこまできて遮る様に副長の右頬に再びビンタを食らわす。


ドミニク「…アナタは…! 現状が解っているのですか?! あの…忌々しい神の裏切り者(黒い男)を捕まえねば…! 罰せねば…! 我々プルス・アウルトラ(協会)は前に進めないのです! 離反者を出したなどとッ! 神に背を向ける行為などッ! 許しては成らないのですッ!」


再び息も絶え絶えに後ろを振り向き、咳を吐く。


その剣幕に、指揮所は静まりかえった。


ドミニク「…少ない資料ですが、本当に終わったのですね?」


振り返って聞く。


副長「…間違いなく」


ドミニク「報告を…!」


そう言って再び背を向けた。

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