中編 其の九



―4月26日(月)午後―


―都立あきる野第二高等学校三宅分校 1―2教室―



週が明けて月曜、三日経っていた。


その間は何も無かった。


ただ一つだけ変わっていた事があった。


クリフ「…」


右後ろの席に視線をやる。


空席になっており、美穂は居ない。


あの後、美穂からの連絡は無い。


ただ、一通のメールが送られてきた以外は。


クリフは携帯をを開き、メールの受信ボックスを開く。


2004/4/23 17:36

From: miosakuma

To: H.Christopher.D

Sub:

件名:クリフ君!やったよ!


ワークショップに誘われたって言ったでしょ?

理事長から選ばれた生徒は参加出来るって。

なんとね!すぐ参加してもいいって連絡がきたんだ!だから、私すぐにでも参加してみようとおもうの!

しかも、フランス料理だって!

すごいよね!しかもレバーやフォアグラを使ってみたコース料理だって!豪華だよね!

コースは全然解らないけど、高校生でそんなの学べるとか!

でね?ごめんなんだけど…そのせいでお願いしてた料理の感想、また今度教えてもらえるかな?

ごめんね。約束したのに。

でも、一回参加してみたらぜったいなんか変わるハズだから、もどってきた月曜日、たのしみにしててね☆

いってくる!


…既に月曜の授業は終わっている。


美穂はいない。


だが、周囲は誰も気にしていない。


それが異様だった。


周囲の同級生に聞いても、


"何かあったんだろ?"


"職業訓練校も兼ねてるし、個別の授業もあるから"


受け入れと疑問を持たない返答…


教師に疑問を投げても、


"優秀な生徒は職業訓練を兼ねて外部授業で校外に出ることもある"


"泊まりでの外部授業もままあること、携帯が通じないのは電源を切らせているから"


そう言って気にしていない様だった。


詳しく聞こうとしても、プライバシーの問題で教えられないと言うし、教師も先方に職業案件を投げたら、その先の事は丸投げと、乱暴なものだった。


これでは、家族を亡くした生徒を受け入れたこの学校では、生徒の安否を含め状況把握が致命的に出来ないのではと感じた。


親がいなければ、学校がその生徒を預かる立場として、護らなければいけない筈なのに、それが機能していない。


何より怖いのは、この校内にいるほぼ全ての人間が、そのシステムの穴に違和感を抱いていないことである。


クリフはそう感じた。


その上で、この状況にクリフは一抹の不安と焦りを覚え、校内を探索し始める。


その視得ない答えを―

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