中編 其の十
十
―4月26日(月)午後8時半過ぎ―
―都立あきる野第二高等学校三宅分校 用務員室―
咒符で強化されたコートを羽織り、靴の紐を締め、"閻魔"を背中に背負い、立ち上がる。
黒い男「…よし」
ツカツカと歩いて出入り口の戸に手を掛けようとすると、ガラリと先に戸が開いた。
クリフ「あの!」
そこには焦り顔のクリフが居た。
クリフ「ッ…僕のッ…クラスメートがッ…行方…ッ不明でッ…」
息が上がりながら絶え絶えに言葉を続ける。
黒い男「…」
無言で部屋に入れ、戸を閉める。
そして居間に戻ると、ノートPCを開き始めた。
その様子を視て、クリフも冷静になったのか疑問を抱く。
クリフ「?…その格好…何処かに行くんですか…?」
装備を整え、仕事に向かうのは明らかだった。
…自分には声を掛けずに。
黒い男「…ここ数日、協会の手助けでこの学校のデータを閲覧してた」
クリフの中での疑問とは全く違う返答を返してくる。
クリフ「…え?」
その返しに、頓狂な声を上げてしまう。
黒い男「この学校の生徒の進路先だ」
クリフ「進路…?」
黒い男「そうだ それによって解った事がある」
クリフ「なにが…解ったんですか…?」
黒い男「進路先の生徒の行方―」
クリフ「行方…?」
黒い男「そう、行方 …この学校は失踪が多過ぎる」
そう言って、PCを弄り、モニターをクリフに向ける。
黒い男「しかも表沙汰になっていない…先を追っていくと、必ず何処かで行方が途切れている 進路先や外部に丸投げだからだ」
FM―Vのマウスポインタをタッチパッドで動かしながら述べる。
クリフ「! それは…僕も感じました…この学校はおかしいです…!」
黒い男「ああ…意図的だと思うが、情報の伝達を制御している様に感じる その上で、行方不明者は全て親が居ない生徒で寮暮らし…特に、三宅島避難民の生徒が大多数を占めている しかも女性がほぼ 男性は淘汰されていると言っても良いほど」
クリフ「…!」
黒い男「…その上で、何しに来た? お前」
FM―Vのモニターをバタッと閉じながらクリフに問う。
クリフ「いや…僕のクラスメートが行方不明に…それで、どうにもならなくなって…助けて欲しくて… ! でも!ヒドイですよ!僕を置いて行くなんて! 何故一人で行こうとしたんです?!」
クリフが述べながらもハッとして自分の扱いに気付いたか、問い詰める。
行方不明という言葉に少し反応し、クリフのその疑問を聞いた後。少しの間の後、口を開く。
黒い男「…お前はこの生活に順応してきている それがどんなことであれ、お前はガキで学生だ 必ずその生活の中で得た体験が、お前に影響を与える …戦いに迷いを与える」
最後は少し…間が在った。
クリフ「そ…れは…」
言われて、確かに自分は焦っている。
任務以外に気をやっている。
居なくなった同級生を探すのに必死だ。
任務での今直ぐ与えられた情報に対応出来ていない。
クリフ「足手纏い…だと?」
視線を向けながら問う。
黒い男「…そんな状態ならオレだけで十分だ」
クリフ「…」
その言葉に俯く。
クリフは思う。
この人の言う事は最もだ。
自分は今、任務に忠実では無い。
しかし、何故、こんなにも、自分の心はざわついているのか。
任務に集中出来ないのは―
そのクリフの横を通り過ぎ、出口の戸へ向かう。
クリフ「…っ待ってッ…下さい…!」
クリフの言葉に、振り向くことなく立ち止まる。
クリフ「…何処へ行くんですか…?」
黒い男「…行けるのか?」
少しの間の後、クリフに問う。
クリフ「行方が解らなくなったのは…僕の同級生です それに…」
そう言ってクリフはこちらに振り向く。
クリフ「その為に…僕は此処に来ました…!」
その眼には、一つの決意が視得た。
黒い男「よし…行くぞ」
その言葉と共に、用務員室を後にする。
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