地 其の十 ―動揺―

―正午―


―薄木・粟辺地区"阿古高濃度地区"七島展望台"教会"内―



その言葉に、この三ヶ月で犯した自分のミスを脳内で探りだした。


黒い男「どういう事だ?!」


その言葉と共に、鐘の音が上部から鳴り響いた。


この教会の上部に在る様だが、歪で聞き心地が悪く、不協和音と言うのが正しい嫌な音だった。


山羊頭(バホメット)『ほう…ペルガモが破壊されたか…やるなニンゲンよ だが、この儀式を止める事は出来んぞ』


"止められない"…その言葉に悔しさと絶望感が増す。


山羊頭(バホメット)『まぁ、構わん 此度の黙示録再現は、貴様等が五年前にこの"東京"で"大罪"と戦ったからよ』


黒い男「…は?!」


そう言われても、自分は何もしていない。


言われている意味が解らなかった。


黒い男「どういう…??!」


その本当に解らないという態度を見かね、山羊頭が口を開く。


山羊頭(バホメット)『貴様等が五年前に"大罪"を滅し、この地の地脈を活性化させたのよ 我はそれに則(のつと)っただけ 謂(い)わば此度の全ては貴様等三人のせいよ』


黒い男「フザけんなッ! オレは関係ねぇっ!」


自分には何のことか解らなかった。


五年前?


そんな頃、自分は何もしていない。


三人て…?


金鈴の巫女、青い符術師(あの二人)以外にもう一人―?


誰だ?


山羊頭(バホメット)『ニンゲンよ 貴様の事で在ろう? 地脈を辿れば過去の乱れを読むなど容易い―"龍の者" 貴様で在ろう? 力など殆ど持ち合わせていない貴様が何故―…』


そう言って山羊頭は頭(かぶり)を振った。


山羊頭(バホメット)『…違うな ニンゲンよ 貴様は"こちら側"の者だな?』


本気で何を言っているか解らなかった。


龍の者?


こちら側?


黒い男「何を言ってるんだ…」


山羊頭(バホメット)『何? 貴様伝えられていないのか? 仲間に』


仲間…


仲間…?


思考を巡らす。


あの二人しか頭に浮かばなかった。


全ての疑問が繋がる。


何もかも合点がいった。


あの時花園神社で二人に声を掛けられたのも。


その時の二人の態度にも。


この右腕の"力"にも。


時偶窮地に陥らないと発現しないこの"力"…


"龍"…それが自分の力の源…


右腕の甲に一つだけ在る金色の鱗を見ながら思う。


…何故二人は教えてくれなかったのか?


自分は仲間では無かったのか?


結局、自分は誰にも視られていなかった。


滑稽だ。


誰かの代わりだったなどと…


寂しさと怒りで塞ぎ込みそうになる。


それをを見て、山羊頭の口元がゆがみ、続ける。


山羊頭(バホメット)『そうか…辛かろう…哀しかろう…仲間に裏切られた辛さ…もう、絶望を享受し、足を折れば良い… "子羊"が四つ目の封印を解く所だ』


混乱した今の頭には、尚のこと山羊頭の言葉が声と共に煩わしかった。


だが、やる事は、唯一のすべきことは変わらない。


余計な思考を振り払いすべき事をする。


黒い男「もう良いんだ!一緒に帰ろう!」


精一杯愛己に向かって声を掛ける。


…だが、その仕草を視て、山羊頭が答えを寄越す。


山羊頭(バホメット)『そうか…勘違いをしているな…?』


勘違いだと…?! 五月蠅い…!


黒い男「いなくなったのは気にしてないから…! 早くしないと…!」


彼女は父親との関係で周囲の調和を気にする節があるから…


連れ去られたのは誰のせいでもない…!


それを伝えて安心させないと…!


だから


山羊頭(バホメット)『これは、この娘が望んだ事なのだぞ…?』




―正午過ぎ―


―坪田高濃度地区 地獄谷―



竜尾鬼「どういう事ですか?」


トシの放った言葉に思わず聞き返してしまう。


トシ「どうもこうもない 彼女は父親を殺している…!」


竜尾鬼「話が全く見えません! つまり?」


スズ「…つまりね…今回の"大罪"は、彼女なの…! ッ」


慣れない山歩きトレッキングで疲労しながらも、ようやく追い付いたスズが息も絶え絶えにそう答える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る