天 後編 ―縁―



―新宿 花園神社―



男「な…!」


その光景に驚愕しながらも、ただ、"キレイだな"くらいにしか思えず、自分はその状況下、全く動く事が出来なかった。


何をやっているのか全く解らなかった。


その不可思議な状況は、理解を超えていたのだ。


青年「…終わったか」


女性「なんとかなったね」


青年「そうだな…それより、早く直すんだ」


女性「あ、そうだね コレで…最後」


そう言いながら、その女性は鳥居横の神社の名前が刻まれている所に向かい、何かをしている様だった。


女性「コレで大丈夫だよ …で、彼は?」


その青年の傍に向かいながら此方に視線を向けて、青年に問う。


青年「ああ… 巻き込まれたのか…? だが、あの氣…」


女性「うん… 彼…なのかな あの"チカラ"…」


二人で何かを話しているが、全く意味が解らない。


チカラってなんだ…?


男「あ…あの…どうも…ありがとう…」


蚊帳の外にいる様なその空気が苦手で、辿々しく礼を述べる。


青年が口を開く。


丁度街灯の光の逆光となっていて、二人の顔は見えづらかった。


青年「キミは… その"チカラ"は一体…?」


その口からも出たそれは、思ったのと全く違う言葉だった。


男「え?! あ…いや…チカラって…? 何のことか… よく…」


突然の意図しない疑問にしどろもどろしてしまう。


青年「無自覚で…?」


静かながらも驚きが見て取れる反応だった。


その態度を見て、自分が戸惑ってしまう。


何かマズい返答でもしてしまっただろうか。


青年「今までに同じ様な事は?一度も?」


男「あ…いや…無い…ケド」


女性「止めよう 困ってる」


青年「あ…そう…だな」


その女性の言葉に、はっとして冷静さを取り戻したか、


青年「…済まない」


と、口元に手を当てた後、一言述べた。


男「あ…いや…」


逆にどうして良いか解らずに、曖昧な受け答えをしてしまう。


女性「あの」


男「はい?」


急に女性の方に声をかけられ、緊張する。


何かマズったかという自責から。


女性「あなたは…以前から何か不思議な事にあった事はないですか?」


男「は…? 不思議…?」


聞かれた奇妙な疑問に訝しんだ返答をしてしまう。


何言ってるんだ? この人…


女性「真面目に答えてほしいんです」


男「あ…」


その真面目なトーンに気圧されてしまう。


それは本気な、意思がこもった言葉だった。


男「あ…ぇと、運は…良くないかな…」


女性「いつから?」


男「それは…昔から… でも、98年の12月以降からは特に…」


青年「!…何?!」


逆光で余り見て取れないが、青年の顔が少し驚いた様に思えた。


女性「やっぱり… あなたは、"覚醒し目覚めた"人」


男「…は? 目覚め…?」


女性「そう…それで、こんな事の後で、急に…本当に申し訳ないんだけど… 私達を助けて欲しいの」


それは戸惑いを含み、慎重に言葉を選んでいる様だった。


男「え…? オレが…?」


青年「そうなんだ 俺達は味方になってくれる人間を探してた」


その言葉には期待が籠もっている様だった。


男「あ…イヤ…でも、よく未だ解らないし…」


急な事が起き過ぎて、対処出来ず、そう返した。


青年「あ…そう…だな 済まない…」


その空気を察したか、その"期待"を引っ込めた。


男「あ…! でも…」


その純粋さに、自分の曖昧な返答が悪いと感じてしまい、言葉を続ける。


男「今日起きた事が何なのかは…知りたい」


女性「じゃあ…」


返ってくるとも思わなかったその言葉に驚きが在った。


男「ちゃんと説明してくれないかな…? それからでも良いかな? その…あなた達のやっている事の手助けは」


真っ直ぐと彼らを見据えながら、そう答えた。


女性「もちろん!」


その言葉には明確な喜びが見て取れた。


青年「よろしく頼む…!」


そう言って、青年は手を差し伸べた。


男「よろしく…」


差し伸べられたその手を、ゆっくりとだが、力強く掴んだ。



―これが、全ての始まり―


黒い"男"の初めての仲間―


困難の―


成長への―


未来への―


―希望―

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