第十一話

三十八



―2018年 5月31日(木)夜10時―


―町田市 南 バイパス下―



到着したのは夜十時だった。


高速の下で、夜十時を過ぎても往来が激しい。


規制が少し掛かっているが、それでも往来は弱くならない。


中之あつゆき「封鎖できませぇん!」


思い立ったのか突然言う。


青い男「イヤ、してるでしょ…」


呆れ気味に言う。


黒い男「…まだ流行ってンスか中之センパイ…」


白の男「しつこいな中之は …てぇかもういいよ」


中之「えへへ~」


言って満足したのか純粋な笑顔を見せる。


可愛くはない。


もう一度言う。


可愛くなどは無い!!


そうこうしている間に、細い路地に入り、目的地に向かう。


路地に入った途端往来が激減する。


その中に一際目立つ建物が目に入る。


黒い男「お! 中之先輩の行ってみたい所ですよー!」


そう言いつつネオンサイン輝くホテルを指差す。


青い男「川母利さん行ってみたいんじゃないんですかー?」


とイジる。


中之「えぇー? どこですかぁー? わかんないですぅー」


と、誤魔化す様に言うが、視線はホテルから離れていなかった。


物凄い目付きで。


白の男「オイオイ 中之興味津々だなぁー? 入りたいのか?」


中之「入ってみたいですねー♪」


と、ノリで答える。


このくらいは出来る様になっていた。


黒い男「一人で!」


中之「一人はイヤですよォー! ぼく女の人と入りたいですー」


語尾は笑いながらだった。


思春期の様に照れながら言う。


それは、そこはかとなくキモかった。


青い男「いないですよ」


白の男「そうだな ムリだな」


中之「なんでですかぁー!」


それはそうだ。


四十過ぎ童貞ヲッサンの照れなど見たくもない。


白の男「…それに、仲間置いて一人で逃げる様なヤツじゃな」


青い男「そうですね アレは酷かったですよ タダの低級霊でしたけど、自分が危険になったからってナビほっぽりだして絶叫しながら逃げたじゃないですか」


白の男「前な」


冷静に衝撃的な事を言う。


中之「前はですよー! もうしないですよー!」


とは言うが、事実だった。


白の男「その前に、なんつった? お前

ぼくは皆を助けたいんですよ 皆のためになりたいんです!

…とか言ってたよな?」


それはその直ぐ後に起きた出来事だった。


黒い男「…信頼ねぇなぁ」


その発言には


そう言う以外なかった。


黒い男「頑張って下さいよー? 特に今日はね」


中之「ハイー」


と、間の抜けた返答をする。


そう、今日は特になのだ。


…それに、この人は理解力が在るし、キチンと是正すれば良くなる筈なのだ。


…死ぬ程怠け者だからムリだと思うが…


でも可能性は捨ててはいけないと思う。


…期待はしないが。


青い男「ココですか?」


黒い男「…ああ 近くに止めろ」


そうこうしている間に、目的地の横にある廃工場に着いた。


バンから降り、後部へ向かう。


黒い男「―さて…と」


用意をしながらブリーフィングを始める。


黒い男「確認だが、今回は、オレ達二人で行く」


そう言って、自分と白の男を交互に指差す。


白の男「了解だ」


黒い男「二人はバックアップで」


そう言って二人を見遣る。


青い男「わかりました」


中之「わかりましたー」


黒い男「…そして、協会の方が此方…」


そう言ってタブレットを手に取り、画面を皆に向ける。


黒い男「えー…ミノ…ル…鈴木さんだ」


その画面には品の良さそうな紳士然とした、眼鏡を掛けた中年の男性が映っていた。


鈴木『どうも 今日はサポートをさせて頂きます 鈴木です』


どうやらライブ中継らしい。


黒い男「…つかなンスか? ミノル・鈴木て…ガンダムじゃないスか」


即座にツッコむ。


どうやら偽名らしい。


鈴木『細かいですねェ…そもそもミノル・スズキはマンガのキャラですよ? アナタの方がマニアックでは?』


黒い男「ゆーめーでしょうが!」


それに反応して返す。


こだわりがあるらしい。


が、


鈴木『あぁ! あと、私の事はお気になさらず 活躍を見せて下さい』


スルーして話を続けた。


黒い男「ッ…まぁ…そーゆーワケだ…」


スルーされた事に舌打ちをしつつ話を続けた。


鈴木『白い方? 期待させて頂きますよ?』


最期に、そう付け加える。


白の男「了解です あ、今までの実績を…」


そう言いつつ携帯を弄り出したが、


鈴木『いえ、結構です 見させて貰いますので』


行動で見せろという事だった。


白の男「あ…そうですか…」


その態度を見せられ、携帯をしまう。


黒い男「…じゃ、用意を終えたら出発 以上」


そう言って、サポートの二人は車の中に乗り込む。


黒い男「小型カメラ内蔵インカムなんで、コレで三人に情報を送ります」


そう言って少し大きめのインカムを白の男に投げて渡す。


白の男「…了解」


耳に付けながらそう答える。


黒い男「問題無さそうか?」


車内の青い男に感度を確認させる。


青い男「…大丈夫そうです 問題ありません」


音声、映像を確認し、車の中からそう返す。


黒い男「おっけ …中之先輩も頼みますよ?」


そう言いつつ中之を見る。


中之「わかりましたー」


モニターに集中する中之はあっけらかんと答える。


黒い男「ホントに…頼みますよ…あ」


サイドバッグに入っていた独鈷杵どっこしょが地面に落ちる。


中之「あー 落ちましたよー」


それは、三年前に矜羯羅童子こんがらどうじから預かったものだった。


黒い男「あぁ…スイマセン 中之センパイ、取って貰えます?」


中之「あームリですねー」


椅子に座って配置されたモニターを見ている中之が、当たり前の様に断ってくる。


白の男「オイ中之、それぐらい取ってやれよ 観察してるのに集中してるから取れませんって言い訳は通用しねーぞ

一つだけに捕らわれて他出来なくてどーすんだお前バカか」


その甘えを見て、ワンブレスでまくし立てる様にたしなめる。


…が、


中之「えーでもぉー…」


子供の様に渋り出す四十三歳。


それはそれはキモイ。


黒い男「あーあーいいですよ 自分で取りますから…」


それを見て一人納得し、独鈷杵を拾う。


白の男「そんなんじゃ失敗するぞ中之 解ってんのか? 失敗は許されねーからな…! これからの俺等の為にもな…! 重要なんだぞ?」


中之「ハイー…」


納得いかない様な返答だった。


…そんな中之に構ってはいられない。さっさと用意を済ます。


二丁の銃を、羽織ったシャツの腰裏に、隠す様にしまう。


中之の怒られている裏で。


黒い男「ンじゃ…行きますかァ」


そう、中之達の会話を遮りながらグローブを握りしめ、胸の前で拳を掌に叩き付けた。


白の男「ン 応、行くかァ」


中之の説教を切り上げ、工場隣の、草が生え放題になっている真っ暗な道に足を踏み入れた。





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