第十話

三十七



―翌日―


―都内某所―



中之「やっぱりー 今回の事件がかいけつできたのはぼくのおかげだと思うんですよねー」


青い男「…はァ?」


急に何を言い出すかと思いきや、そんな事を言うとは思って居らず…というか、思っていても言えない様な一言を急に言い放ち、場を凍らせる。


黒い男「…何言ってンスか…?」


中之「だってぇーぼくの読みが当たってたしー ぼくの知識が役にたったからたおせたってことですよね? だったらやっぱりぼくのおかげですよー」


黒い男「…イヤ…その事は考えていましたし…そもそもそれをするつもりでしたし、その川母利さんの意見は当たってましたけど、そもそも斃したのは川母利さんじゃないですよね…?」


言い聞かす様に言う。


中之「んー…よくわかんないです」


黒い男「ッ…!」


余りに腹が立ち、あからさまな舌打ちをしてしまう。


白の男「オイ、中之 お前いい加減にしろよ 黒の男コイツが言ってんだろ お前は意見出しただけで、やったのは俺等だ みんなのチームワークだろ」


中之「んー…でもやっぱりぼくのおかげだとおもいます」


口を尖らせながらそう言う。


その発言で一気に場の空気が凍る。


黒い男「…台無し」


褒めた所でコレか


四十過ぎたオッサンの駄々なぞ聞いてるだけで反吐が出そうになる。


白の男「中之…お前バカか…? 何の為にやってんだよ…?

あ?

チームワークだっつってんだろーがよ… そんなんだからアイドルのケツ追っかけてばっかでマネージャークビになったんだろ 四十過ぎて何やってんだ…? 気持ち悪ィんだよ いい加減直せ

そんな事ばっかやってて自分に価値が在るとか…無ぇよ

価値が欲しいんなら甘えないで人の為にやれよ 自分の事ばっかりじゃねーか」


中之「…」


事実だった。


その女好きが高じて、他社のアイドルを追っかけて、それがバレ、クビになった。


なった時も悪びれず、責められてると思い、最期は逆ギレだった。


"ぼくもうムリなんですぅー!"


だったのだ。


それも、もう十年は前だった。


中之「…ちょっとまっててください」


おもむろにそう言いつつ携帯を弄り出す。


黒い男「は?」


その奇抜な行動にいぶかしむ。


中之「はい」


と言いつつ皆の前に携帯を置く。


喋り出したのは異常な相手だった。


携帯『中之の母です』


青い男「はァあ?!」


思わず疑問が漏れる。


四十過ぎのヲッサンが?!


母親を?!


頼る?!


携帯『このコはフツーじゃないんです! だから、ほっといて下さい!』


…何言ってんだこの親…?


この子在りにしてこの親在りか…


納得してしまう。


白の男「いや、コイツを甘やかさないでもらっていいですかね?

コイツのこの行為は甘えなんですよ この状態でいたら、ズッと独り立ち出来ないんですよ それを解ってますか?

こんな事したら、コイツはずっとこれからもこのままで生きていく事になるんですよ 解ってます?

コイツの事を思うなら、それをするべきなんですよ」


携帯『…』


そう、堂々と言われ、携帯は無言になった。


白の男「オイ、中之 解ってるか? お前がこうなってる理由」


中之「わかんないです…」


渋々答える。


白の男「これはアナタ達親のせいなんですよ

子供の頃から甘やかして、お陰でコイツはそれをしたら通用すると思い込んじまった

甘えて楽してるせいなんですよ コイツがうまくいかないのは

いい加減それを理解させてやるべきなんですよ させないんなら口を出さないでもらえますかね?」


携帯『…』


携帯からはもう何も返ってこなかった。


白の男「中之、俺間違ってるか?」


そう問われ、う~んと唸りながら思考し、


中之「…まちがってないですね…」


白の男「じゃ、誰がおかしいよ」


そう聞いて、少しの間の後、


中之「…ぼくがおかしいですー…」


白の男「そうだろうが」


中之「ハイー…」


白の男「なら気を付けろ それを直す努力をしろよ」


中之「…わかりましたー…」


白の男「そのままで良いのかよ」


中之「イヤですー…!」


白の男「じゃ直せ 解ったな」


中之「ハイー… 直しますー」


…親は知らない間に電話から離れていた様だった。


黒い男「…凄まじい…」


その率直な感想を白い男に述べる。


白の男「親も親ならってヤツだ」


黒い男「…納得」


絵に描いたフィクションの様な出来事だった。


青い男「…ぇえ…」


余りにも有り得ない事が起き過ぎて、引いていた。






…これが中之先輩の信用出来ない理由。


そして、勿体ない、可哀想な人でもあるこの人の、『お母さん事件』である。


これからは、誰も心を許していない―…


というか、許せるわけがなかった。




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