第五話

十二



―4月21日(土)深夜―


―上野 鶯谷うぐいすだに駅北外れ さびれたホテル―



入り口の自動ドアが開き、中に入るとエントランスには誰も居らず、カウンターに人の気配も無かった。


ホテルの中のが異常であり、すぐに気を張る。


カウンターをゆっくり覗くと、中に人は居なかった。


エントランスには空調の音だけが聴こえるくらい静まりかえっていた。


青い男「…アタリだな」


そう言いながら、嬉々とした感情が自分に湧いているのが自覚出来た。


エレベーターの横の地図を確認し、階段から上へ。


このホテルは五階建てであり、一階毎の部屋の数は五つは在る。


構造の割には部屋が詰め込まれ過ぎている…不人気なワケだ。


裏路地の端っこの狭い場所に縦長のビル…上に延ばし、から来る顧客減少を増やしたで補う…安くても誰が利用するんだ?


そんな疑問が、階段を上りながら頭に浮かぶ。


慎重に階段を五階まで上がっていく。


上がって行くにつれて、嫌な感覚が強くなる。


圧迫というか…本当に嫌な感覚としか言えない。


そして、


環境音が


この狭さだ。それに場所。音がしない方がおかしい。


シャワー音や喘ぎ声、それが全く無く、上階でが動く音しかしない。


そして


五階に近付くにつれて、なっている。


そしてそれに併せて強くなる―…


それが一番不快だった。


…そもそも他人がヤッてる最中になんか介入したくもない…


大多数の誰もが思う事だろうと思いながら階段を上りきった。


L字型の通路に部屋配置がなされており、端にエレベーターと階段が設置されている。


青い男「建築法として良いのか?コレ…」


詳しく知らずとも、この逃げにくそうな構造にニワカ知識でそうごちる。


そのL字型一番奥の部屋が、音の源だった。


静かに再奥の部屋に向かう最中、半開きのドアが開いた部屋があるので、静かにドアを開け中を覗く。


青い男「ッ…ちッ…」


部屋の中では全裸の男がうつぶせに床で血を流していた。


空調が効いたままだったのか、腐敗は余りしていない様だった。


血がカーペットに染み着き、黒く変色している事から、数日は経っている事が解る。


アタリ過ぎだ。


だが、女性の姿は無い。


女物のバッグは在るから、推測出来る。


奥のシャワー室までは見えなかったが、電気が点いていない事から、入ってない事は解る。


では、何処へ行ったのか?


その疑問を持ちつつ、奥の部屋へ進む。


他の部屋も奥の部屋に近付くにつれ、杜撰ずさんな状況になっている。


直前の四つ目の部屋には電気も点いておらず、中から大量の血が流れ出ていた。


少数の男と大量の女の遺体が暗がりの中、積まれている。


ココはゴミ捨て場か―…


胸糞悪くなる気持ちで奥に進む。


なんでこんな事をするのか…


その理由は想像もしたくなかった。


奥の部屋からは、女の悲鳴とも取れる声と、一定の間隔で壁を叩く様な激しい音がした。


その部屋に今から入ると考えると寒気がする。


懐から咒符じゅふを出し、扉の横に貼る。


そして、ショルダーバッグに手を入れ、縛妖索に手を掛ける。


ゆっくりとドアを覗くと、倒れ込んだ全裸の女性と、その傍らに立つ全身黒い体毛に覆われた2m以上の大柄な猿が、その女を見下す様に立ち尽くしていた。


青い男「…おーおーおー…絶倫ー あ、猿だから?」


軽口と共に部屋に入ると、それに気付いた大猿がにやけながらこちらを見詰めた。


天井には大穴が開いており、そこからの月の光が、大猿の笑いを更に不気味にしていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る