―第二話―
―2016年1月5日(火) 午後8時過ぎ―
―渋谷―
多群雄一は、渋谷の街中を一人、歩いていた。
何とも、理由も無く、ただ独りで。
あの時からなにかやる気が起きない―
投げ出した時から、いつものことだと思い、数日を過ごした。
あの時のことに、何故か後ろめたくも、怯えていた。
心が平穏ではない―
由々しき事だ。
自分の人生では起きては為らない事。
だから思い込む。
いつものこと―
辛いことは不利益、良い事ではない。
心を殺して、笑顔を作り、"嫌な事"で
心は何も動かず、平穏に―
それで良いんだ。
そうして、
だが…
何故か後ろめたい―
逃げた事への―
自分の事しか考えなかった事への―
追われる様な罪悪感が消せない―
いつもの事のハズなのに…
でも、それを
そう考え、ブラブラと歩いていた。
??「オイ!ユウイチ!」
雄一「え?」
そう声を掛けられ、反射的に声の方を向いたが、雑踏で誰かは判らなかった。が、
急に肩を掴まれ、強力な力で路地に投げ込まれた。
そこは縦に長い裏路地で薄暗く、人は全くいなかった。
??「行きましたよ!」
その声の方を向くと、あの、自分を助けてくれた青年だった。
雄一「君は…?」
ワケも判らず青い男の方に近付こうとしたところ、急に弾かれた。
何か、痺れる様な、それでいて磁石で弾かれる様な感覚だった。
青い男「効くだろう?わざわざ現地から取り寄せた、ルルドの聖水は」
急な単語と敵意を持った言葉に戸惑う。
意味が解らなかった
雄一「えェ…?! なんでこんな…?!」
青い男「お前が選んだんだろ…?」
怒りの
選んだ…けれど、こんな…?
混乱する…全身に力が入り、強張る。
負い目が自身を責め始める。
だが、何故か、
意味が解らない理不尽な不快感が
自分がこんな感覚を持っていたのか。
初めてでありながらも困惑する心地良い不快。
黒い男「ツケを払う時が来たぞ…」
物陰から男が出てくる。その薄暗い中、顔の辺りに光が当たる。
それで気付く。龍の者だと。
左手には刀が握られている。
全身に緊張が走る。
何を言われるのか
何をされるのか
殺されるのか
―怖い―
理不尽な恐怖が自身を
その不可解な理不尽。
まだ本人は気付いていない。
黒い男「怖いのか? その怖さは、お前が招いた事だ 選ばずに投げ出した事に対する対価」
恐怖で身が
責められる―
だって怖いから―
怒られる―
嫌だから―
否定される―
何も無くなるから―
それが全てだった。
黒い男「お前はあの時選んでしまった 一番の怠惰、投げ出すという事を
お陰でお前はベルフェゴールを受け入れてしまった
器として魂と融合してしまった
お前は、悪魔に成った
もうベルフェゴールの意思は存在しない
お前がベルフェゴールに成った
そのせいで、お前は生きているだけで怠惰を撒き散らす存在に変わってしまった…だから」
その言葉には
黒い男「お前を殺さなきゃならない」
ハッキリとした殺意が込められていた。
そんな…
逃げなきゃ…!
緊張で全身が強張る。
逃げ道は…?
眼だけで周りを見回す。
何処か…!
何処か…?!
黒い男「無駄だ 逃がさん 必ず消す」
言いながら刀を抜く。刀が鈍く光る。
イヤだイヤだイヤだイヤだ…!
黒い男「足下には悪魔封じを描いておいたからな」
動けない…! 殺される…! ヤハウェに復讐を…! 女達に引導を…! 畜生…!
黒い男「コレが…お前の"結果"だ」
ゆっくりと、動けない身体に退魔の刀、"閻魔"が侵入する。
胸部からゆっくりと、食い込む。
鋭くも
激痛が全身を強張らせ、胸部から血があっという間に
あああああああああああああああああ!
黒い男「お前の"選択"の末路…過去がお前に追い付いたんだ
その選択の"責任"を負って貰う」
そう言って、握る刀に力を込め、
それと共に刀が熱くなり、炎を
何か…刀に力を奪われていく様な…魂が吸われていく様な…気持ちの悪い感覚。
それが、ゆっくりとだが、確実な死の痛みとして全身を駆け巡る。
黒い男「"選択"には責任が伴う それは逃れられない… どんなに逃げても、何処かでその"逃げ"に自分で気付き、対峙しなければならなくなる… そうしなければ、その"選択"から一生逃げ続ける事になる…立ち向かう事は絶対にいつかしなければならない この結果は"それ"なんだ」
とても重く、それでいて、何か哀しく、特に最後は自分に言っている様な言葉だった。
胸部の刺し傷の苦痛からか涙も流れている。
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
まだしにたくない
生への執着。
まだ生きていたいという、死を前にした必死な"生への
だが、決まった、確定した結末は変わらない。
もう戻れない。
黒い男「どうだ? この"結果"…どう感じる?」
淡々と冷淡に聞く。
聞く意味が解らない。
だが、答える。
何故か答える。
意味も解らず。
こんなの…
雄一「こんなの…イヤ…だ」
こんな終わりは…
身体を貫く痛みから、涙も流れ、血も吐き、呼吸も苦しくなり、
血を失ったせいか、意識が
最後の最後まで、生に執着した。
何故執着するのかも解らず。
その"選択"の最後は、酷くあっさりしたものだった。
イヤだ
音に成らない音を発し、世界は暗転した。
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