転 編

―第一話―

拾捌



―2016年1月5日(火) 午前10時20分―


―多群邸―


雄一「ふぅ…」


そう言ってベッドから起き上がる。

あれから五日経った。

俺は逃げた。



―2015年12月31日 午後11時58分―


―泰叡山護國院 瀧泉寺 裏 参道―


除夜の鐘が鳴り響いている。

聴こえないハズの鐘が頭の中で。

不安になり周りの情報を遮断したくなる。


黒い男「時間は、待ってはくれない…選べ」


出来ない…!


青い男「…どうします?」


こちらを睨みながらも視線を変え、話し始める。


黒い男「この空間そのものがヤツだからな…除夜の鐘が鳴り止む前に、事を起こすと思う 重要なのは、この空間を外に出さないことだ」


青い男「外に出るってどうやって? ココとは別空間なのに」


黒い男「多分…この刀の"持ち主"の力だな」


そう言って、自分の刀を左手に顕現させ、目をる。


青い男「…ここに囚われている だからか…」


黒い男「その"力"を使って、此処を維持し、表に浸食していくんだろう」


青い男「納得がいく… でもどうします?ココを壊すなら…」


黒い男「オレがやる この"刀"ならこの空間ごと切り裂ける」


青い男「でも…! そんな事をしたら…!」


それは悲痛な声だった。


黒い男「"刀"が"死ぬ"か、オレがこの空間と一緒に"消える"か…どっちか

…または両方か」


青い男「リスクデカくないスか?!」


黒い男「仕方ねー それ以外は無いからな …それと」


そんな意味の解らない会話の中、突然視線が自分に向けられ、ビクついてしまう。


黒い男「ユウイチ君に選んで貰わないとな」


来た…!

遂に自分に矛先が…!

そんなの無理だ…!

こんな異常な中で、自分は一般人なんだ…!

…逃げたい

そう感じた瞬間、二人が自分から目を離した隙に、後方に走り出していた。


黒い男「ン…?」


青い男「アイツっ…!」


責任と責務からの逃亡…その手段に怒りの感情が湧き出た。


黒い男「イヤ、それなら、この場を破壊すればいい」


達観した、そんな事には捕らわれないといった風に解決策をさらりと提示する。


青い男「でも…!」


その感情をいさめる様に、続けて言葉をつむぐ。


黒い男「良いんだよ アイツの選択だ しかし…

それを"選んだ"か…もうこの"結末"は決まったな

アイツにとっての最悪の結果…それを"選択"したのもアイツだ」


達観し、それでも残念さが最後には含まれている様だった。

急激に地面が揺れはじめ、世界が萎縮いしゅくし始める。


青い男「な…!?」


急なことに動揺の声を上げてしまう。


青い男「なんだ…?!」


ココが外に出る前触れだ


黒い男「…そうなるな

よし、早く逃げるぞ!」


一人納得し、結論を出す。


青い男「え?! えェ!」


意味が解らずとも逃げるという方向に思考を向け、その言葉に相槌あいづちをうつ。

きびすを返し、崩壊する世界から逃げる為、弁天池へ向かった。


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