―最終話―

十七



放たれた弾丸は、雄一の右肩を貫いた。瞬間を置かず、


黒い男「ただしてくるわ」


青い男「え?」


ワケも解らずその声が出た。


黒い男「『戻れ』ッ!」


そう言って指を鳴らした瞬間、右手の指輪が光り、引っ張られる様な感覚と共に、世界が暗転した。



―午後11時30分―


―泰叡山護國院 瀧泉寺 裏 仁王門前―


雄一「?!アレ?! ここは…?!」


撃たれた肩口を触ってみて、傷が無いと確認し安堵しつつも、その異常さに戸惑う。


黒い男「お前にさっき撃ち込んだ弾は『カイロスの弾丸』だ」


雄一「カイロス…?」


青い男「なんかしたンスか?! 言って下さいよもー!」


雄一の疑問の声と同時に青い男が声を発した。


黒い男「悪ィな …でだ、ま、さっきっつってもこの時間からしたら"未来"だが」


雄一「え?!あ!!」


言われて腕の時計を視て、驚く。十一時半だ。


雄一「でも!俺、この時は人がいっぱいいた参道に…!」


意味が解らなくなり、裏返った困惑の声を上げる。


黒い男「カイロスは人間の主観時間の神 それの"力"がこもった弾丸をお前に撃ち込んだ」


そんな疑問を無視して説明を続ける。


雄一「は…?」


全く意味が解らず疑問の声が出る。


青い男「まさか撃ち込んだのも!」


黒い男「アレで、ベルフェゴールの時間を固定した オレがこの"力"を使うと発動する様になってる

外れても物理的なモノではないから効果がある そして…

さっき地面に撃ち込んだのが、『クロノスの弾丸』だ」


青い男「クロノス…? なんか違うンスか?」


青い男のその疑問も、雄一には奇天烈きてれつ過ぎて付いていけなかった。

過去に戻るなんて…

自分の理解を超えていた。


黒い男「クロノスは過去から未来へと流れる連続した絶対時間の神だ」


青い男「そんで未来から戻ったンスか? オレには解らんけど」


黒い男「まぁな」


当たり前にそんなSFみたいな会話をしている二人に驚きつつ、自分の今置かれている事態を思い出した。


黒い男「だから、固定したベルフェゴールの方にお前の精神を引き寄せたのよ。」


雄一「な…なるほど…」


納得は出来たが理解が出来ない。


黒い男「さぁ、ユウイチ君よ 選択の時だ」


改めて選択について自分に顔を向けられ、強張ってしまった。

そうだ。自分は選ばなければならなかったのだ。

嫌だ。選びたくない。


雄一「あの…オレじゃなく…その…専門家の貴方達にお任せして…」


そこまで発言して、その二度目の中途半端さに苛つきが最大になり、思わず青い男が口にする。


青い男「お前!まだそんな事言ってんのか! お前がしなきゃいけねぇ事だろうが!」


雄一「そ…そんな事言ったって…! よく判らないし…! 俺の選択なんて役に立つワケじゃない!」


そんな事判らなかった。だが口から出てしまう。


黒い男「それは違う お前の"選択"が重要だ お前が選ばなければ、お前に憑いたベルフェゴールは離れん」


バッサリ斬り捨てられ、更に焦る。


雄一「そ…!そんな…! だって!そんな強い力があるんだから…!」


黒い男「無理だな」


キッパリと断定した。それは雄一にとって絶望的な返答だった。

眼前がんぜんが真っ暗になる感覚―


黒い男「ヤツはお前の魂とくっついている 心が理解し合っているんだ それを剥がすには、アイツが必要じゃないと、お前が選ばないといけないんだ。」


雄一「えぇ…」


失意と悲嘆の声を上げる。


黒い男「そうでないと、お前のせいで人が苦しむ事になる」


絶望的な感覚。それが全身を包む。

なんで…なんで、自分が…


雄一「こんなめに…」


黒い男「選ばないからだ」


無慈悲な事実。


黒い男「ツケを払う時が来たんだ」


その言葉に全身が強張り、緊張した汗が流れ始める。


黒い男「選ばなかったことのな」


ブチ当たった事の無い、強大な見えない壁に阻まれ、思考出来ない。


黒い男「さぁ…」


眼の前がチカチカする感覚…虚脱きょだつ感と共に前屈まえかがみに倒れ込む。


雄一「ッ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」


何故か呼吸が苦しくなる。


黒い男「このまま待ってもいられない」


いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ…


黒い男「時間が無いんだ」


こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい…


雄一は動かなかった。

動けなかった。

混乱による思考停止とパニック。


黒い男「…仕方ない 自分で視てこい」


そう言って、右手の指輪をいじり出す。


黒い男「『進め』…!」


そう言って指を鳴らした瞬間、空間が渦巻き、世界が暗転しながら吸い込まれた。



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