幕間―龍ノ刻― 其の肆



ドサッという落下音と共に、血や内臓の飛び散る嫌な音がする。


無頼漢「ぁあぁぁああァァァ…! なんだァ…オメェはァァァァ…!」


悲痛な声を絞り出しながら、悲痛な恨み言を述べた。


山羊頭「ぎざま゛…あのどぎの゛…?」


そうさえずにゆっくりと歩み寄る。


黒い男「…」


汚いモノを見る様な眼でを見下す。


無頼漢「なんで…! なんでオラァが…こんな目にィ…!」


その一言に反応する。

…こんな?

硬い靴の裏で容赦なくユックリと、力を込めてを踏み付ける。


黒い男「なんでこんな目に…だと?」


暗い意思が一層黒くなった。力を込めてその足でを踏みにじる。


黒い男「貴様が此処でやった事はなんだ…? 243年前に起こした事を…忘れたとは言わさんぞ…? 本郷丸山に発し、江戸の三分の一を焼いた大火事を…!」


その言葉には殺意と共に明確な怒りがこもっていた。


黒い男「自分の為とかくそフザけた理由でやったのなら…理由にはならん…! どれだけの人が死んだと思ってる…? 貴様のエゴの為に…!」


無頼漢「ちょっとした事だぁ…! オラァが悪ぃんじゃあねぇ…! 逃げなかった奴らが悪ぃんだァ…!」


悪びれずにそのはそう述べた。

その言葉に激情が全身を駆け巡る。

殺意という名の。


黒い男「黙れ…! 甘えた事ばかり抜かしやがって…!

要は手前テメぇがラクしたがった結果だろうが…!

故に、貴様は十の大罪ほぼ全てに当て嵌まる大罪人だ!

今回の"怠惰"も貴様のせいだろうが…!

責任を負え…! コレが貴様のした行動の結果だ!

貴様に慈悲は無い…!罪を贖え…!」


無頼漢の顔を踏み付ける足に更に力がこもる。

それは、到底許せる事ではなかった。


山羊頭「ぎ…ざま…! 本当にあの…おどごか…?!」


山羊頭が、余りの違いに疑問を喋りだす。

苛つく対象が更にもう一個増えた事で、怒りが増す。


黒い男「あァ…?! 何、十年前の頃と一緒にしてんだ…?」


山羊頭「十年…だと…そんなに…」


その事実に驚きを隠せないでいた。


黒い男「経ったんだよ。お前等が別次元にいる間にな」


山羊頭「貴様…あの時とはまるで別の…!」


ぐじゃあ

という音と共に腹部の顔を踏み潰した。

頭蓋が爆ぜた音だ。

腹部の無頼漢顔をあっさりと踏み躙る。

何事もなかった様に当然に。

聞きたくもなかった。

なので終わらしただけ。

イヤだどうだと甘えた事をのたまっていた様だが、そんな事は聴かなかった。

実体化していたので、が飛散する。

山羊頭が苦悶の表情で苦痛の声を上げる。

目には苦痛の為かうっすらと涙も浮かんでいる様だった…

だが、そんな事には微塵も容赦しない。


黒い男「…忘れるものか…! 貴様のした事を…! 彼女をかどわかした事を…! …オレにさせた事を…!」


それは、その山羊頭からしたら、

もう山羊頭には陰氣をまとい、黒い影の様になった、黒い男の姿に恐怖する事しか出来なかった。

悪魔の自分が?

あんな半端な存在だった者に?

自分が?

悪魔の自分が?

恐怖している。

そう。

今…

自分は…

恐怖している…

悪魔なのに。

悪魔なのに、この眼前にいる黒い男の陰氣に呑まれている―

ああ

自分は、

殺されるのだ―

絶対的な死―

免れられない絶対的な―

無への恐怖―

それを訪れさせるのが、眼前のこの男。

見下すべき対象の人間―

見下していた人間―

その間際まで恐怖を染み込ませられるのだ―

それが、

怖い

のだ。

バフォメットは恐怖した。


黒い男「絶望を味わえ―」


黒い男の右手には、いつの間にか、邪気を喰らう、生きた退魔の刀"閻魔"が在った。

右手に力を込め、

"閻魔"を、

ゆっくりと、

深々と、

山羊頭の顔に、

刺し込んだ。

その圧倒的な様相に、一部始終、キンカラは動く事が出来なかった。




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