幕間―龍ノ刻― 其の参

―午前2時10分―


―仁王門前参道―


邪気が集まる場所に着くと、上空に邪気が集まっているのが判った。

雷鳴と共に上空に渦巻く闇が集まる。

そして、それは薄汚い無頼漢ぶらいかんに形を成し、そこから更に変化した。

まるで、異形の進化や変化といったものをゆっくり見せられているかの様に、人から、翼の生えた三メートル程の山羊と人との混合キメラといった形に変化した。

腹部には、その無頼漢の顔が在った。


キンカラ「アイツだよ!さっき別のにーちゃんと変なふつーのにーちゃんが独鈷杵どっこしょを元に戻してくれたから結界が強化されてるハズなのに…!」


それを聞いた瞬間、青い男と判り、心の中でごちる。

アイツ…戻したはいーけど…! ?…フツー…?

なんだソイツ?

一抹いちまつの疑問を抱きつつ、すぐ頭を切り換えた。

あの頭は、体躯は、見覚えがあった。

十年前に。

あの、三宅島で。


山羊頭「ようや顕現けんげん出来た…! オラァという依代よりしろを得て…!」


喋っている言葉は、奇妙だった。二つの意思が介在するのか、二人の主張が混ざり合った様なものだった。


黒い男「オイ!山羊頭!」


喋っている最中に声を掛けられ、山羊頭は反射的に、その声のする方向へ、両手から炎を放った。


黒い男「ぅおっ! 危ねッ!」


と、危ながってみつつ、余裕で炎を大げさに跳躍して避ける。

アグニ。腐っても坊主か。

真言しんごんだけは覚えていた。

だが実体化までするとは、余程邪よほどよこしまなのか。

そう思いながら、右手グローブに内蔵された「VK」を放つ。

着地と同時に山羊頭の身体にワイヤーが巻き付いた。


山羊頭「?!コレは…!」


その声を上げた途端、山羊頭の全身を苦痛が走った。


山羊頭「メ゛ェェェェェエエェェェェ!!!」


退魔の力が込められているため、山羊頭は苦痛と共に身動きが取れなくなった。

一体誰がこんなマネを?

驚きと共に山羊頭は周りを見渡した。


山羊頭「何…?!」


意外だったのか、驚きのこもった声を出す。


黒い男「久し振りだなぁ!」


それに、余裕のある言葉で返され、予想外の相手だったのか、山羊頭は驚いていた。

アレは?

まさか、あの男か?

見覚えがあった。

三宅島で。


山羊頭「貴様…? !あの時の龍の者か…?」


本当にあの男か?

以前とは比べものにならない。

雰囲気も違う。

迷いが無い。

むしろ圧倒的で絶対的な意思を感じる。

そして、それを知ろう筈もないキンカラも驚いた。


キンカラ「知ってるの?!」


黒い男「ヒサシブリー♪」


頓狂とんきょうな声でキンカラを無視して軽薄に答える。

知ってるとも。


山羊頭「あの半端物が?貴様では役不足だな…!我はこの者を介してこの世界に戻ってきた!お前如きではこのバフォM…!」


わずらわしかった。

さえぎるために力を込める。

相変わらず汚い声で耳障りだ。ろくでなし坊主を取り込んだからなんだというのか。呆れる程にレベルが低い。

それに、あの時の事は忘れてなんかいない。

しかし、気楽な感じで言葉をつむぐ。


黒い男「何年前の話してんだ!あの時と一緒にすんじゃねえ!」


そう言って右手に仕込まれた、モノフィラメントワイヤー「VK」を引く。


山羊頭 「ぐぅおおぉぉっ!」


魔に有効である「VK」が山羊頭の身体に食い込む。

その余りの苦痛に声がでてしまう。


黒い男 「どーだよ!聖鞭せいべんは! …お前は隠れてろ…!」


余裕そうな口振りから一変、キンカラにそう告げた。


キンカラ「ぇ…でも…!」


その先の言葉を遮る様な形で睨みを効かせる。

―邪魔だ―

尋常じゃない暗さ…その眼にキンカラは恐怖を覚えた。

そういう眼だった。


キンカラ「! …うん」


言い知れぬ"暗さ"にキンカラは側にある門の影に隠れる。

それを確認し、山羊頭に対して軽口に戻る。


黒い男「よッ!」


右手に"力"を込めると、VKが金色こんじきに輝き出す。

それにより、山羊頭には更に激痛が走り、あらがう力が弱まる。

黒い男に引っ張られるまま、眼前に引き寄せられた。


山羊頭「貴様ぁ…!なんだコレは…!」


激痛から来る怒りで、そう凄むも、余裕の表情で答える。


黒い男「何だと思う?」


普通だったら恐怖するだろうが、自分は違う。

会えた事に感謝している。…!


山羊頭「ふざけた事を…! GAAAAA!」


適当な返しに苛立ちを覚えたのか激昂するが、右手の"龍のかいな"に、更に力を込める。


山羊頭「GYYYYAAAA!」


余りの苦痛に藻掻もがく力が弱くなる。

おとなしくさせた。

苛立つのがお前だけだと思うのか。

だが、おくびにも出さず、


黒い男「ヒ☆ミ☆ツ♪」


と軽口を叩く。


山羊頭「ふざけた事を…!」


それに苛立ちを覚えたか、怒りを口にしかけたが、喋りかけた所を、右手に込めた"チカラ"と共にアッパーで顎を殴り抜ける。

もうその煩わしいを聴きたくなかった。


山羊頭「げぉぼぁ…!」


実体化しているからか、山羊面の口から血が吐き出され、折れた歯数本が、地面に音を立てて落ちた。

その行為には、""が存在した。


山羊頭「ぎぃざまぁ…!」


与えられた苦痛に対し、怒りを込めた睨みを効かす。

だが、そんなものは遮り、左手で顔面を更に殴り続ける。


山羊頭「メ゛ェェェェェェ!」


声にならない山羊の苦痛な悲鳴が出る。

―忘れるものか。

続けざまに右手に"力"を込め、

堪らず山羊頭の口から血が大量に出る。

が、そんな事はお構いなしに、連続で右上段回し蹴りを側頭部に入れ、続く動きで左後ろ回し蹴りをに入れる。


山羊頭「ゲェェェェアアァァァァァ…!!」


山羊頭は内臓が飛び出る程の苦痛で吹き飛ばされる。

―筈だが、「VK」で引き戻され、更に繰り返し連撃を浴びせられる。

それは、異常な光景だった。

三メートルはあろう山羊の化け物を180センチ程の男が殴り続けているのだから。

その一方的な"暴力"は、正に龍の逆鱗に触れた様な凄まじさだった。

もう山羊頭からは悲鳴すら聞こえなかった。

そして、右手の「VK」で引き寄せつつ糸を巻き取りながら、サイドバッグから咒符じゅふを出す。

瞬時に右手で咒符を持ち、"力"を込めて掌打を山羊頭の腹に喰らわす。

苦痛の声を吐き出しつつ吹き飛ばされる山羊頭。そこに続けて、


黒い男「ナウマク・サマンダ・バザラダン・センダマカロシャダ・ソハタヤ・ウン激しい大いなる怒りの相を示される不動明王よ 迷いを打ち砕きたまえ 障りを除きたまえ。タラタ・カン・マン所願を成就せしめたまえ!」


不動の真言を唱えると、咒符から光と衝撃が、山羊頭の全身に苦痛と共に走る。


山羊頭「ゲェェェェェェェェ!!!!」


激しい光と衝撃は唱えた自分にも来る勢いだった。


黒い男「おー!流石護摩焚さすがごまだきしただけあるぅ…!」


驚きと共にちょっとだけ引く。威力は折り紙付きだった。

宮司サンキュゥゥゥ

一瞬心の中で思う。

もう山羊頭は息も絶え絶えに苦痛による絶叫を続けていた。

だが、


黒い男「まだだ…!」


そう真剣な声音で言うと、抜刀の構えを取り始めた。

左手に、光の中から刀が顕現した。

そして、"力"を右手に込める。

すると、握っている部分が金色に輝き始める。

そして、


黒い男「…! ふッ!」


神速で抜刀をすると、山羊頭の周りの空間に無数の切れ込みが走る。

一瞬間を置いて、ゆっくりと納刀する。

つばさやに収まるカチンという音と共に、山羊頭は細切れに飛び散った。

文字通り、、バラバラになったのである。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る