幕間―龍ノ刻― 其の弐


―12月31日(木) 午前1時50分―


―仁王門抜け―参道―


一度戻り、準備をしてからだったものだから、こんな時間になってしまった。

しかし、この気配は放っておけない。


黒い男「さて…行きますか」


そう言って、一歩踏み出した時だった。


??「おにーさん、ねえ、おにーさん」


門を抜け、少し歩いた所で声をかけられた。


黒い男「あ?」


幼い声。子供の。

不自然だ。

こんな時間に?


??「こっちだよ」


門の方を振り向くと、十五歳くらいの少年が顔を出した。

見ると袈裟の様なものと白衣はくえを羽織っている。

八王子神社から派遣されたか?

…にしては格好が仰々し過ぎる。似付かわしくない。

喋り方も古めかしい。

別件で頼んでるならあの宮司…老獪過ぎる。

てえか、あの独鈷杵どっこしょもどこから手に入れたのか。


黒い男「…何者だ?」


そう言いながら少し気を張り、観察する。

二カ所が元に戻ったとはいえ、まだこんな異常な状態なのだから、何が起こるか判ったものじゃない。

目線を外さず、警戒心を解かずに聞いた。

そして、右手グローブのVKユニットに力が込もる。


??「オイラはキンカラってんだよ!お兄さんさ、不動様を救いに来たんだろ?オイラが案内するよ!」


しかし、返ってきた言葉は、想像したものと違った。

何か…言葉が取り繕われた様な…その言葉をの様な…不自然さ感じた。

そして生じる疑問。

キンカラ…? 不動様…?


黒い男「…」


キンカラ「こっちこっち!」


黙って相手の出方を伺っていると、その坊主はこちらの思惑などそっちのけで地蔵堂に手招きした。



―午前2時―


―地蔵堂前―


キンカラ「ホラ、閻魔様がいなくなっちゃったんだよ」


地蔵堂に着いたキンカラは、指を差しながらそう言った。


黒い男「…」


確かに…ここは、あの氏神うじがみの落ち着く場所の一つとしてされている場所だったのに、その氣すら残っていない。

異常だった。

この地蔵堂には、"気配"が無かったのだ。


黒い男「…確かにな」


キンカラ「多分あそこのせいだよ」


そう言って、キンカラはまた一人自分を差し置いて女坂に向かった。



―午前2時5分―


―女坂 利剣―


そのキンカラを追って、女坂の階段を上ると、利剣前に神妙しんみょう面持おももちのキンカラが立っていた。


キンカラ「利剣が傷付いたんだ」


そう言って利剣を指さした。


黒い男「コレは…」


その先にある利剣モニュメントに眼をやると、大きめのヒビが入って割れていた。

それは、その大きさから見れば些細な大きさではあるが、確実に欠けていると解る傷だった。

そのせいか、利剣本来の"力"が失われてしまっている。

…割れた部分は何処に言ったのか?


キンカラ「アイツが持ってっちゃったんだよ」


アイツ…?


キンカラ「さっき、鬼のあんちゃんが斬り倒したんだ」


黒い男「鬼の…?」


あんちゃん? 何時いつの時代だ。古臭い言い回しをする。

…ていうか、竜尾鬼たつおきか。雑だぞ。ちゃんと邪気吸え。

心の中でののしった。


キンカラ「でも少しだけ残ってたみたいなんだその盗人の霊」


黒い男「盗人…?」


この辺りで盗人? すぐさま頭の中で、この辺りの事件を検索する。

思い当たるのは一件在った。

…成る程。納得がいった。


キンカラ「そう。盗人。盗人が欠片を隠しちゃったんだよ」


黒い男「それは何処だ?」


キンカラ「わかんない。でも―」


キンカラがそう言いかけた時、邪気が急激に仁王門前参道に集まるのを感じた。


黒い男「?!なんだ?」


キンカラ「アイツだよ…! 変な魔物が!」


変な? それは何だ?

自分の中での警戒レベルを上げる。


キンカラ「西洋の魔物だよ!」


その言葉に反応する前に、仁王門に向かっていた。

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